2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23820064
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
森田 貴之 南山大学, 人文学部, 講師 (90611591)
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Keywords | 『太平記』 / 楠正成 / 和漢比較 |
Research Abstract |
本研究の目的は、東アジア漢字文化圏における文物の交流の具体例として、軍記物語『太平記』における、元代・明代の中国文学受容の様相を分析することである。平成23年度の研究実績は、研究実施計画に記した、「出典未詳説話の検討」のうち「同時代資料を用いた出典未詳説話の出典の探索」にあたる。当初の計画通り、『太平記』巻三十八「年号改元之事 付大元軍之事」を対象として調査を行った。この説話は、宋と元との合戦を扱うもので日本文学史例が少ない。そのため同時代資料との関係が想定され、本研究課題の対象としたものである。今年度では、先行研究により、登場人物像に強く反映されている楠正成に注目した。具体的には、巻三十八「年号改元之事 付大元軍之事」において「宋の伯顔」が類似した作戦を使ったとされている、巻九「千剣破城軍事」の楠正成像に注目した。これは『太平記』第一部で最も著名な場面である。この場面が巻三十八を含む第三部世界にどのように継承されているのか、を調査した。研究課題の主たる目的である出典調査の前提として、『太平記』作品内での位置づけを確認するためである。『太平記』に見られる「千剣破」という地名表記が、『太平記』の内部で、「ちはやぶる」という枕詞の表記として、第三部に再度浮上していることを指摘し、楠正成という人物が死後も『太平記』第三部の世界で強く意識され、歴史叙述構想を規定していることを示した。この成果を前提とした巻三十八「年号改元之事 付大元軍之事」の意義づけについて考察を行った。その成果については、平成24年度に刊行予定の研究論文集への公刊が予定されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
公刊された学術論文は1点であるが、上記の研究実績の概要に記した通り、2012年度に公刊予定の学術論文の前提となる問題点を指摘したもので、当初平成24年度に計画していた「『太平記』の歴史叙述姿勢への影響の検討」にも該当する。したがって順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、「1.出典未詳説話の検討」を継続し、今年度の成果もふまえ、巻四十「高麗人来朝之事 付太元責日本之事 并神功随三韓給之事」を主な対象として研究を行う。また、「2.『太平記』関連漢籍の流布受容状況の調査」に注力する。いずれも、平成23年度に一部資料調査を行っており、平成24年度は研究計画最終年度として、その成果の公開に努める。
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