2011 Fiscal Year Annual Research Report
ドゥルーズ哲学における言語の問題とその自然主義的記号論の生成
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23820066
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
小林 卓也 京都産業大学, 文化学部, 講師 (50611927)
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Keywords | ドゥルーズ / フランス哲学 / 現代思想 / 言語 / 記号 / 自然主義 / 物質性 / 超越論的経験論 |
Research Abstract |
ドゥルーズ哲学の展開を記述することを課題とする本研究は、初年度にあたる平成23年度において、1970年代以前の前期著作群を対象とし以下の研究を行った。 1.『意味の論理学』における言語の物質性の問題 本研究は、これまで注目されることのなかった『意味の論理学』(1969)におけるエピクロス派の自然主義に着目し、その理論的寄与を分析した。とりわけ、「ルクレティウスとシミュラクル」と1961年のLes Etudes philosophiques誌上に掲載された「ルクレティウスと自然主義」との文献的異同から、当時のドゥルーズの関心が、言語における物質性の問題にあることを明らかにした。これは、思想史的な観点からすると、言語の形式性に準拠する60年代の構造主義とは対称的であるとともに、後期ドゥルーズにおける自然哲学、唯物論的哲学に直結する議論がすでに萌芽的に認められることを示している。 2.「超越論的経験論」の典拠と概念内容の分析 次に、前期ドゥルーズの哲学を特徴づける「超越論的経験論」という概念の出典と内実を明らかにすることを課題とした。『差異と反復』(1968)に見られる「超越論的経験論」という表現の直接的な出典としては、Jean Wahlによる一連の著作が考えられるが、なかでもウィリアム・ジェームズの根本的経験論は、ドゥルーズに独自の経験論解釈を促したという点において重要である。またドゥルーズが経験論を超越論哲学という観点から解釈したその思想的背景には、Jules Vuilleminによる新カント派解釈がある。とりわけ本研究では、人間と自然の特異な関係という主題を『経験論と主体性』(1953)と『カントの批判哲学』(1963)の分析を通して考察した。これにより、超越論的経験論が、経験論と超越論哲学を単に結びつけたものではなく、両者相互の変容を要請する概念内容であることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の成果発表(口頭発表・論文投稿など)の締め切り期限が過ぎてしまったため、十分な成果発表を行うことができなかった。未発表の分に関しては平成24年度にまとめて発表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は本課題の最終年にあたり、1970年代以降のドゥルーズ哲学の変遷を分析対象としている。とりわけ、『アンチ・オイディプス』(1972)における自然概念という論点に絞り、その概念的な変化を文献学的に調査することでドゥルーズ哲学における前期と後期の対照を明らかにすることを目的とする。したがって次年度は、哲学のみならず、記号論、生物学、生態学、物理学といった多領域に跨る後期ドゥルーズにおける自然哲学を対象とする。そのため、より精密かつ迅速な文献の読解を行うべく、今年度よりもより計画的な研究手順を踏む必要があるだろう。また、国内のみならず国際学会等での成果発表も予定している。
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