2011 Fiscal Year Annual Research Report
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23820077
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Research Institution | Notre Dame Seishin University |
Principal Investigator |
木下 華子 ノートルダム清心女子大学, 文学部, 講師 (10609605)
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Keywords | 国文学 / 和歌 / 鴨長明 / 方丈記 / 無名抄 |
Research Abstract |
本年度は、『無名抄』諸伝本の調査と『方丈記』の作品研究に重点を置いて、研究を進めた。 『無名抄』諸伝本については、国文学研究資料館のマイクロフィルムで10本程度の本文と書誌事項の確認を進め、『無名抄』の校本を作成する上での基礎的なデータの蓄積をはかっている。 『方丈記』の作品研究においては、二つの実績を上げた。第一は、雑誌論文「『方丈記』が我が身を語る方法」(『国語と国文学』89巻5号)である。『方丈記』が『源氏物語』や『法門百首』といった同時代に幅広く享受された先行作品をもとに、『源氏物語』の主人公・光源氏の姿を二重写しにするような本歌取り・本説取り的な手法によって作者像を作り上げていること、それが釈教歌を仏教的な根拠として行われた方法であることを明らかにした。また、その手法が鴨長明個人にとどまるものではなく、後鳥羽院を中心とした文化圏で用いられた可能性が高いことを指摘し、中世初期の仮名散文における表現意識に対する問題提起を行った。第二は、『文学』(隔月刊)13-2号に発表した雑誌論文「『方丈記』終章の方法」である。『方丈記』の終章部分を、それが根拠とした先行作品や同時代に展開する言説と注意深く照らし合わせながら読み解いたものである。研究史上、数多くの論争がなされ、今まで読みが確定しなかった『方丈記』終章を、謙辞として作品終結の方法として作品内部に位置づけ、そこから鴨長明の浄土信仰・念仏行のあり方と表現意識を明らかにした。さらに、それらが読み手を意識して行った手法である点に着目し、『方丈記』の読者層を念仏行の遁世者とする見解を導き出した。従来、読者が特定されず、執筆の動機・背景も不明であった『方丈記』という作品が成立する場を明らかにし、新たな読みと作品の意義を問うことができたと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究においては、『無名抄』伝本のデータ蓄積が順調に進み、『方丈記』作品研究については当初の計画以上の進展があった。和歌に関しては、『正治後度百首』の注釈と確認作業をあらかた終えている。研究の進捗状況としては、おおむね順調であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、本年度からの研究を継続して、『無名抄』伝本のデータを蓄積し、『校本無名抄』の完成を目指す。また、和歌については、24年度に予定していた『正治後度百首』関連の作業を23年度に前倒しして行ったため、24年度は『鴨長明集』の注釈作業を行う。これらの伝本的な基礎研究と和歌の作品研究を踏まえ、歌論書『無名抄』の作品研究を行い、鴨長明の和歌観を明らかにし、文学史の中での相対化と意義付けを行う。
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Research Products
(3 results)