2011 Fiscal Year Annual Research Report
移民統合政策が移民の社会参加に与える影響についての実証研究
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23830007
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
永吉 希久子 東北大学, 文学研究科, 准教授 (50609782)
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Keywords | 社会学 / 移民政策 / 社会統合 |
Research Abstract |
本研究の目的は、移民統合政策が移民の社会参加に与える影響を検証することにあった。本年度は、制度の影響を、(1)世論調査データを用いた計量分析と、(2)スウェーデンにおけるフィールドワークを通して検証した。(1)では、移民の労働市場における周辺化が、ホスト社会住民の移民に対する意識に与える影響を明らかにした。具体的には、移民とホスト社会住民の間で労働市場の分断が起こっている場合に、外国人の増加に対する拒否感が強まること、逆に、ホスト社会住民が移民と学校や職場で接触する機会があることによって、移民への社会的権利の付与に肯定的になることが明らかになった。また、従来移民への寛容性を高めると考えられてきた、高い社会階層にいることや、移民との友人関係があることなどが、文化的権利の付与への支持を高める一方、社会的権利の付与への支持には影響を与えないことも示された。つまり、移民を「外国人」としてではなく、対等な権利をもつ存在として認める意識は、労働市場の分離や空間的分離の改善によって形成されうるといえる。 (2)では、移民の形式的権利が保障されているスウェーデンにおいて、移民の実質的な統合が進んでいない原因について、検討を行った。まず、マクロデータの分析から、ヨーロッパ圏外からの移民が労働市場から排除されていることを確認した。さらに、移民集住地区にある職業紹介所および反差別法の運用を行う平等オンブズマンでの予備的インタビュー調査により、"Swedish code"を身につけ、就労することを求める社会保障政策が、移民の文化的権利を認める政策とジレンマを生んでいる、また、労働者の権利を、団体交渉を通じた集団的権利として保障してきたことが、反差別法の運用において障害となり、採用時に差別にあった個人の権利を保障することが困難になっている等の、次年度の調査にむけた仮説を立てた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
スラェーデンにおける調査については、昨年度に行った予備的調査において、次回調査時の協力者を確保することができ、また、労働組合における調査が必要であるとの着想を得るなど、順調に進展している。また、移民統合政策が移民の社会参加に与える影響についての分析に関しては、すでに論文にまとめており、現在査読者のコメントに従い修正中である。制度論のレビューに関しては、現在まとめているところであり、やや進展が遅れているものの、これも今年度中には著作の一部として公表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は二つの課題を行う予定である。第一に、スウェーデンで調査を行い、移民に対する労働市場政策および反差別法の運用が、移民の労働市場における周辺化を生むメカニズムについて明らかにする。具体的には、昨年度調査を行ったジョブ・コーチと反差別オンブズマンに追加調査を行うのに加え、移民が集住するマルメ市の移民統合政策推進担当者、インターンシップ・プロジェクトの担当者、労働組合幹部に対してインタビューを行い、移民統合にかかわるアクターが、移民の労働市場における周辺化にどうかかわっているのかを調べる。第二の課題として、ホスト社会住民の移民に対する意識と移民との交流の規定要因についての計量分析を著作にまとめる。ここでは、新制度論の枠組みを用いることにより、これまで民族関係の分析で見落とされてきた制度の影響を明らかにする。
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