2011 Fiscal Year Annual Research Report
日常に生きる書写指導確立のための基礎研究-字形損傷要因の分析を通して-
Project/Area Number |
23830031
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
杉崎 哲子 静岡大学, 教育学部, 講師 (30609277)
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Keywords | 書写 / 字形 / 横書き / 速書き / ディスグラフィア / 持ち方 / 姿勢 / なぞり |
Research Abstract |
日常に生きる書写指導として、字形損傷の顕著な横書きの速書きを中心に取り扱うが、字形損傷は損傷要因との相関性が極めて強いため、内容や程度が多岐に渡る損傷の要因を認知と運動の両面から確認する必要がある。 そこで文献調査を行い、脳科学的見地から書字障害(ディスグラフィア)の認知面での要因(アトキンソン2005、笹沼2007)を確認した。特別支援学校での支援・介入の方法は、通常学級でも一斉や個別の指導に導入が図られている(大庭1996)。例えば、漢字を構成要素で分解し色分けする、形を言葉にする等の方法(白石2009、稲垣2011)がある。運動面に関わる「なぞり」については、視写との学習効果の比較(小野瀬1995)、筆記具操作能力の発達的変化や速さと正確性との関係(本多・佐々木2009)、視写・聴写と書字速度の相関性(河野2008)を明らかにした。書写指導の視点から字形損傷をとらえ直す(廣瀬・橋本2009、小林2004)と、損傷表出の場面・状況そのものが損傷要因であることが明確になった(杉崎2012)。 研究協力校においては、字形損傷の実態を把握し、パイロットテストやなぞり手法等の試行で生徒らの反応や字形損傷の程度を調査した。その結果、絵・記号の視写では各々ある種のストローク(筆使い)で見本とずれること、モニタに提示した文字を指でなぞる実験では筆画の中心から遊離しないことが分かった。さらに通常の筆記具でのなぞり・姿勢等の調査では、書く速さにより特異な姿勢の乱れの発生を確認した。速書きの場合、損傷は顕著だが日常よりも速さに順応した軽い持ち方となるのに対し、遅く書く場合は、損傷は緩徐ながら持ち方の乱れる状況が認められた。以上のように、脳内に記憶させるための空書き的な「なぞり」の速書き指導における有用性が示唆され、速書き指導のモデル作成につながる具体的な手立てを得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文献・事例調査については、認知・教育等の多くの研究者と会議を行い、通常筆記における字形損傷にとどまらず、いわゆる学習障害における字形損傷まで幅広く調査を行った。また指導手法開発の検討に関しては実験のパイロットテストを行い、仮説を実証するなど、次年度の準備を行うことができた。ほぼ順調に進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の調査・パイロットテストをふまえ、字形損傷要因の分類(杉崎2012)を援用して、(1)持ち方、(2)書き方、(3)姿勢、(4)書字障害、(5)その他の視点から分析を行い、静岡・愛知・の研究協力校の児童・生徒を用いて、実態調査・計測を行い、実践に生きる試案までを行う。また、特に横書きの速書きにおける字形損傷の改善を見据えた授業を考察する。(1)の持ち方については、書字時の握圧(筆記具を握る圧力)、傾斜角、筆圧の計測と検討を、(2)書き方については、タブレット等と連動させたストロークの計測と評価、(3)姿勢については、人間工学的なアプローチによる最適な姿勢の検討、(4)書字障害については、特に発達性の場合の現状把握と分析、(5)学習時の書字による疲労について、(1)(2)(3)を統合した考察を行う。
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