Research Abstract |
本研究計画は,日本において近代企業がいかなる経路で発展していったのかについて,20世紀初頭の綿紡績業を主たる対象として解明することを課題としている。具体的には,1)法制度が企業の意思決定に与えた影響,すなわち,契約理論及び法と経済学,2)企業の意思決定がいかなる過程を経て選択されたのか,すなわち,企業統治,3)成長していく大企業を運営するにあたってどのようなマネジメントが行われていたのか,すなわち,組織の経済学,これらの観点から近代企業の発展メカニズムを解明することが課題である。 こうした課題設定の下で,今年度の研究成果は主として2)と3)である。2)については,下記の「研究発表」にも記載しているように,株式会社における企業統治の根幹である株主総会と取締役会の実態に関して明らかにした。具体的には,直接金融への依存が高まるにつれて,株主総会における株主の発言力が高まり,そして取締役が株主の代行者として監視を強めることによって,株主価値を高めることが示された。こうした近代日本の事例は現代日本の企業統治を考える上でも示唆的である。 3)については本報告書には記載されていないものの,2010年度に執筆した論文の改訂(中林真幸/石黒真吾編,『企業の経済学』,第6章「複数単位企業の生産組織-20世紀初頭の鐘淵紡績会社の合併-」として所収,近刊)を2011年度に行っており,研究の進展がみられた。具体的には,これまで経済学的には必ずしも明瞭ではなかった「シナジー効果」について,鐘淵紡績会社を事例として,なぜそうした現象が生じるのかを明らかにした。シナジー効果が生じる主たる要因は,合併前に被買収企業の経営実態を徹底調査して資産評価をすること,合併後は被買収企業の工場も含めて企業の全工場の相対評価を可能な限り客観的に行うこと,各工場で蓄積される現場の知識-暗黙知-を全工場に伝播させること,の3点であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で述べたように,本研究計画の課題を大きく3つに区分すれば,その内の2)と3)については論文として研究の成果が既に上がっている。したがって,平成24年度に残る課題は1)のみとなり(既に先行研究の整理は進んでいる),これは本科学研究補助金申請時に提出した研究計画を概ね達成していることから,区分(2)に該当することが適当であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に残された研究課題は1)法制度が企業の意思決定に与えた影響である。具体的にはまず,判例のデータベースを構築することにある。その構成要素は(1)時期,(2)判決,(3)主文,(4)被告,(5)原告の5点である。このデータベースを下に法制度が企業統治に与えた影響を明らかにすることが今後の研究の基本方針となる。さらに1)~3)を統合させて日本における近代企業の発展像を描き,それをもって博士論文として提出することが本研究計画の今後の推進方策となる。
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