2011 Fiscal Year Annual Research Report
インドの経済成長期における人口移動と所得移転による階層的流動化過程の実証分析
Project/Area Number |
23830079
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
加藤 眞理子 法政大学, サステイナビリティ研究教育機構, リサーチ・アドミニストレータ (30613228)
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Keywords | インド / 送金 / 人口移動 / ビハール / 階層流動性 / 社会差別 / エンパワーメント / 所得分配 |
Research Abstract |
本研究においては、農村家計における移住と州外移住者による送金の経済的効果について、社会階層ごとの経済的名を捕捉し、とくに貧困層に対する経済成長へのアクセス機会たる出稼ぎの有する所得分配の改善効果に注目するために、インドの経済改革の直後の時期にあたる1993年度と、高成長期にあたる2007-08年度の大規模家計標本調査、National Sample Survey(NSS)の個表データを用いた異時点間分析を行った。さらに、貧困層のモビリティをより詳細に検討するために、当該期間における最貧州であるビハール州を対象として行った。1993年度においては、あらゆる社会階層において、国内の出稼ぎ農村家計は、移住者のいない家計よりも経済水準が低く、貧困に近い状態にあった。しかし07-08年においては、出稼ぎ家計の経済水準が非出稼ぎ家計を上回るという逆転現象が生じており、その傾向は、社会差別を受ける、被差別家計であるSC(Scheduled Castes)において特に顕著であった。ビハールでは、1993年には、州外移住者を輩出したSC農業労働者家計の経済水準は、最貧層に位置していたが、2008年には、そのような家計の移住率が増加した上に、経済水準が飛躍的に改善し、移住を行わない家計との経済水準の差異がほぼ消滅し、中でも最貧困層である農業労働者家計において出稼ぎの所得改善効果がとくに高かった。つまり、90年代前半には、出稼ぎSC家計は貧困状態にあったが、2000年代の経済成長期においては、国内の出稼ぎによる送金は社会的・経済的後進階層の所得制約条件を緩和したといえ、将来的に、国内移住と送金が、後進階層にとってのエンパワーメントの手段となりえるだけでなく、強固と思われたインドの社会的な階層流動性を賦与する可能性がありうると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
インドの家計データに対する計量分析から得られた多くの知見を元にした上で、インドおよびイギリスにおける研究協力者を獲得し、さらに良好な関係を築いており、より研究目的に即した現地調査が達成可能であるという見通しを得ている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はインド政府によって提供されたデータのみならず、インドの研究機関によって収集されたデータ、および、自らとインドのNGOによって収集されたデータを統合した上で、理論的、実証的な多角的な研究の統合を目指す。さらに、インドをフィールドとする国内外の社会学者および文化人類学者との緊密な連絡を保つことにより、本研究を学際的な研究として結実させていく予定である。
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