2011 Fiscal Year Annual Research Report
世界金融危機対応をめぐる比較制度分析:英・米の事例を中心に
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23830082
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
神江 沙蘭 明治大学, 国際日本学部, 特任講師 (90611921)
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Keywords | 国際政治経済 / 金融ガバナンス / 金融危機 / 比較制度分析 / EU経済 / 危機対応 / 経済政策 / 銀行監督 |
Research Abstract |
本年度は、主に英国と米国の2008年世界金融危機対応と金融監督規制の改革を検証し、1)「権力集中型-分散型」の政治システムやアクターの違いが改革の内容にどのような影響を与えたか、2)それぞれの改革において金融危機という文脈や危機以前の監督体制がその態様や効果にいかに影響したか、3)各改革をグローバル・レベルでの制度変化との関連でいかに位置づけられるかを分析した。 2011年9月(交付申請)~2012年3月の期間で、世界金融危機とそれへの対応、グローバル・ガバナンスと金融規制、金融市場をめぐる比較政治等に関する先行研究を検証し、本研究の課題を位置づける作業を行った。そして9月にワシントンDCで文献収集・(準備的な)聞き取り調査、3月にロンドンで文献収集・聞き取り調査、ボストンでの聞き取り調査を行って危機対応の実態を調査した。また3月のCouncil for European Studiesで英国の規制改革に関する論文を報告してフィード・バックを得た。 上記の研究・調査に基づき論文を執筆・修正しているが、現段階での分析内容は以下の通りである。1)権力集中型システムでは危機の有無に関わらず監督機構の統廃合等を行いやすいが、制度の実質的な機能は政治経済の状況や主要アクターの政策選好に大きく制約される。2)危機対応という文脈では監督機構の再編成や規制強化に抵抗するアクターの政治力は一定程度抑制されるものの、国内レベルと比較してグローバル・レベルにおいてはこのような抑制機能は限定的となる。3)危機以降、グローバル・レベルでは規制強化と同時に監督体制における分権的アプローチが重視されているが、これは国レベルでの規制権限の統合という流れと一致する。これらの分析は更なる検証が必要であるが、金融危機と制度改革をめぐる政治について理解を深めるうえで重要な意義をもつ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2011年11月に世界金融危機・欧州債務危機を受けた欧州連合の対応とそこでのドイツの役割に関する論文、2012年3月に英国の世界金融危機対応と監督制度改革に関する論文を学会で報告し、執筆作業の中で危機対応における国・地域レベルの制度的な影響について分析を精緻化できた。また出版予定の著書の審査と原稿の修正過程で研究の理論的な枠組みを再構成する一方、米国・英国での聞き取り調査を経て各ケースの実地の知識を深め、主要な論争状況を把握した。よって本プロジェクトは成果論文等の完成に向けて概ね順調に進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の研究・調査の成果に基づいて論文の執筆・修正を進め、新たな文献・聞き取り調査を行って最終成果に繋げる。特に本年度の夏(9月上旬を予定)に文献・聞き取り調査を米国・ドイツで行い、危機対応のプロセスについて理解を深める。その際に「9」に記載した課題に補足して、1)危機後の英国の監督制度改革と欧州レベルでの改革との関連性、2)危機後の米・英の金融システムの特徴の変化についても検討する。 研究成果を効果的に発信するため、本科研費研究の最終成果については以下のようにまとめる。米国の危機対応と英国を含むその他の国との比較については、平成25年度に出版予定(平成24年3月に出版社と合意済)の著書『The Politics of Financial Markets and Regulation : The United States, Japan and Germany』の中で論じ、英国の危機対応に関する研究は米国との比較の観点を組み入れて別に論文として発表する。"
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Research Products
(4 results)