2011 Fiscal Year Annual Research Report
両大戦間期における地方企業の経営展開と株主:秩父鉄道株式会社の事例
Project/Area Number |
23830083
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
恩田 睦 立教大学, 経済学部, 助教 (50610466)
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Keywords | 秩父鉄道株式会社 / 株主 / 企業統治 / 両大戦間期 / 鉄道史 / 経営史 / 日本経済史 |
Research Abstract |
2011年度では、当時の新聞史料、業界新聞(鉄道、窯業関係)、埼玉県庁文書、秩父市保存文書など、必ずしもオンライン公開されていない資料を調査した。 次に2011年度の課題について、明らかにしたことは以下の通りである。秩父鉄道は、第一次大戦後の好況期に石灰石採掘事業始めた。だが、運輸収入の増加は、長瀞などへの観光客誘致を積極的に展開したことでもたらされた。全線の電化をはじめとする輸送力の増強と、奥秩父への延伸は、このような旅客輸送と収入の持続的な増加を前提とした。一連の経営判断に対して、大多数を占める地方株主のなかには三峰神社社司の薗田稲太郎のように早期の延伸開業を求めるだけでなく、参詣客の来訪者数の増加を画策して登山鉄道を計画し、同社にその建設と経営を持ちかけたものもいた。ところが、関東大震災後から昭和初期にかけての不況期における観光客の減少、自動車輸送に代替できる小口扱貨物の縮小は、取締役社長の諸井恒平に、従前の観光客と地方産品の輸送では収益を得ることが困難になったことを認識させた。諸井は、自ら設立した秩父セメント会社の製品と原料を輸送することで秩父鉄道の収益を確保しようとした。このことは、秩父鉄道が沿線の商工業者や三峰神社との関与を希薄にしていく契機になったのである。昭和恐慌期の秩父鉄道は、中長期的に安定した運輸収入を確保できる秩父セメント会社という大口荷主の輸送部門としての性格を急速に強めたのである。日本経済史および経営史研究では、両大戦間期には大企業が出現し、たとえば製造業における経営戦略の考え方には製造から販売までを系列化するいわゆる垂直統合が採用されたことが指摘されてきた。ところが、これまでの研究では必ずしも実証的に垂直統合のプロセスが明らかにされてこなかった。本研究は、秩父鉄道が、秩父セメント会社の垂直統合戦略に包摂されていく過程を明らかにした点で意義のあるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究に必要な史資料の入手が順調に進み、当初の予定通り昨秋からは具体的な検討に入っていること。また、並行して途中経過的な内容ではあるものの、学会報告(渋沢研究会)と論文(『渋沢研究』)を公刊することができたことなどから判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
鉄道会社の経営を具体的に検討するときには、関連する地域の産業や企業の経営についても目を配らなければならない。秩父鉄道株式会社の場合には、同業の西武鉄道株式会社に加えて鉄道を利用する秩父セメント株式会社や観光業(三峰神社などの社寺仏閣も含まれる)をはじめ、中小零細事業所に至るまで数多くの利害関係者がいる。本研究を実りあるものにするためには、言うまでもなくこうした利害関係者の経営の内実についても検討する必要がある。すでに、秩父セメント会社の調査を進めており研究に最低限必要と思われる史資料を入手した。しかし、多くの事業所は史資料を公開しておらず調査が難航している。対処としては、地元の関係者への聞き取り調査や市町村史などの記述を援用することを考えている。
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