2011 Fiscal Year Annual Research Report
銀行預金市場の地域別市場分断と銀行合併の影響に関する実証分析
Project/Area Number |
23830126
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Research Institution | Research Institute of Economy, Trade and Industry |
Principal Investigator |
内野 泰助 独立行政法人経済産業研究所, 研究グループ, 研究員 (60612918)
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Keywords | 金融機関 / 合併・統合 / 銀行預金市場 / 地域別銀行市場分断 / パネルデータ / パネル共和分 / パススルー / 店頭預金金利 |
Research Abstract |
本研究は、銀行預金金利データを用いて、日本の地域金融機関の合併・統合に伴う社会的便益・費用の定量的把握と社会的便益・費用が生じる前提条件である地域別銀行市場分断仮説の検証を行う。それにより、合併の生じた地域の顧客に不利益が生じたかを明らかにすることを目的としている。既存研究では、これらの問題に対して、銀行貸出市場に注目し銀行の財務諸表から推定された貸出金利を用いて実証分析が行われてきた。それに対して、本研究では銀行預金市場に注目し銀行別の店頭預金金利データを用いて分析を行う。その理由として、預金とりわけ定期性預金は、標準的な寡占理論が想定する同質財の性質を満たすと考えられるため、理論仮説の検証結果に信頼性があることが挙げられる。更に、実際の取引価格データ(店頭預金金利)を利用することで、貸出市場を対象とした既存研究において深刻であった計測誤差の問題を克服することができる。 平成23年度の研究においては、上記のうち地域別銀行市場分断仮説の検証を行い1本の論文を執筆した。当該論文においては、日本の地方銀行・第二地方銀行約100行を対象に市場金利(国債利回り)から預金金利への転嫁率(パススルー率)を銀行別に計測し、得られたパススルー率と所在する都道府県レベルでの市場集中度(ハーフィンダール指数)との相関関係を検証した。その結果、寡占的な県に所在する銀行ほどパススルー率が低い、すなわち、市場金利の変化を預金金利へ転嫁していないこと、が明らかになった。本研究結果は、日本の銀行預金市場の地域別分断を示唆するものであり、銀行貸出市場が全国的に統合されているとする既存文献と異なる結果となっている。この結果は、地域金融機関の合併・統合が預金者や債務者に負の影響を与える可能性を示唆するものであり、平成24年度の研究では、同データを用いて地域金融機関の合併・統合が銀行の預金金利設定行動に与える影響を分析する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の研究については、分析を終了し暫定的な結果を年度内に日本経済学会および日本金融学会にて報告した。また学会報告を経て改定した論文を経済産業研究所のディスカッションペーパーとして近く公表予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
まず平成23年度の研究成果を学術誌に投稿する作業を平成24年度の早い時期に完了する。同時に、本研究課題のもと地域金融機関の合併・統合が金融機関の預金金利設定行動に与える影響に関する実証分析を開始する。分析に先立って、平成23年度中よりデータ整備等の準備を進めている。
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