2011 Fiscal Year Annual Research Report
走査トンネル顕微鏡を用いた低次元量子スピン系のボトムアップ構築と局所磁性観察
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23840008
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉田 靖雄 東京大学, 物性研究所, 助教 (10589790)
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Keywords | 走査トンネル顕微鏡 / スピン偏極STM / 量子スピン系 / ESR STM |
Research Abstract |
スピン液体・朝永ラッティンジャー液体・ハルデンギャップなど様々な興味深い量子多体現象が注目されている低次元量子スピン系の研究舞台は、これまで化学的手法によるバルク試料が主流であった。本研究では、表面上に吸着させた磁性分子を構成要素とし、理想的な1次元、2次元量子スピン系を走査トンネル顕微鏡(STM)を用いてボトムアップ構築し、スピン偏極STMによる磁化測定、非弾性トンネル分光そして現在開発中の電子スピン共鳴STM(ESR-STM)を用いて、その基底状態および励起状態のエネルギー構造を詳しく調査する。これを通して、これまでバルク試料の3次元性に隠されて見えなかった基底状態の本質に迫ることが本研究の主な目的である。 本年度は、まず研究室に現有の低温・強磁場下(最低温度2.6K、最高磁場11T)の走査トンネル顕微鏡(STM)に改良を加え、ESR-STMを行える環境を整えた。次に、Ag(111)表面の清浄化の条件出しを行い、走査トンネル分光(STS)によるAg(111)面の表面状態および表面定在波の低ノイズ・高精度観察を可能とした。さらに、Ag(111)表面に蒸着された有機分子ピセンの研究を通してSTMの性能を評価した。そして、ピセンの成長過程とそれに伴うAg(111)面の表面準位のエネルギーシフト、さらにカリウムをドープした際の電子状態の変化などの観測に成功した。また、この実験を通して、STS測定の高精度化・高分解能化を行った。また、スピン偏極STM探針として有力な、高純度のクロムの薄板を使ったクロム探針の作成法を確立することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
現有の低温・強磁場の走査トンネル顕微鏡(STM)が故障中でかつ改良中(ESR・STMへ)であったことで、当初予定していたスピン偏極STMの実験をすぐに始めることが出来ず、装置の修理と改良の完了に時間がかかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
現在はSTMが非常に安定して動作しているので、申請当初に予定していた実験を急ピッチで進めて行く予定にしている。使用予定のAg(111)表面の清浄化は完了しているので、まずは測定対象である酸素分子をAg(111)表面に低温で吸着させ、その構造のSTM観察を行うところから開始する。また、STM探針によるマニピュレーションを行う環境も整えたので、酸素分子の観察が終われば酸素分子のマニピュレーションを試みる予定である。原子のマニピュレーションが上手く行かない場合は、テストサンプルとして用いた酸素よりずっと大きな分子であるピセンを蒸着し、マニピュレーションを試みる。酸素分子の磁性を調べるための、スピン偏極STMの立ち上げとして、当初の予定通りAg(111)のMnの磁性を標準試料として用いる予定である。ただし、観察が困難である場合に備えて、スピン偏極STMのための標準サンプルが多く存在するW(110)を購入し、さらにW(110)の清浄化が可能なサンプルホルダーの開発も同時に行う予定にしている。
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