Research Abstract |
本研究の目的は,情報の流れを伴う非平衡定常系における,情報処理の熱力学的性質を理論的に解析することである.平成23年度においては,主に下記のような研究を行い,成果を得た. (1)フィードバックがある状況での非平衡等式と応答理論 多数回の測定・フィードバック(連続測定・フィードバックを含む)された非平衡系において,非平衡等式(ゆらぎの定理・ジャルジンスキー等式)の拡張と,それを展開して得られる線形応答関係式について,理論的に研究した.その際,情報量の尺度として,entropy transferとして知られる相互情報量の一般化が重要な役割を果たすことを明らかにした. (2)非平衡定常状態間の遷移において,どのような熱力学ポテンシャルがダイナミクスを特徴づけるかについては,測定やフィードバックを含まない場合についてさえ,線形応答を超えた領域では,これまであまり明らかになっていなかった.そこで,情報との関係を研究するための準備として,まずは測定やフィードバックを含まない場合の,非平衡定常状態間の遷移について研究した.その結果,平衡状態間の遷移とは対照的に,準静的過程でのエントロピー生成を特徴づけるスカラーポテンシャルは一般には存在しないことを明らかにした.そして,ベクトルポテンシャルが非平衡定常状態間の準静的遷移を特徴づけることを明らかにした.得られた結果は,従来なされてきたスカラーポテンシャルに基づく研究が一般には適用できないことを明らかにした意義も持つ.さらに,量子力学におけるベリー位相と共通の数学的構造をもっているという点でも興味深い.この研究は,これまで知られていなかった非平衡ダイナミクスに特有の性質を明らかにする第一歩であり,情報との関係を研究するうえで重要な役割を果たすことが期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
非平衡定常系における情報処理を研究するうえで,そもそも非平衡定常系に特有な性質の解明が,,フィードバックがない場合でも困難であるという問題があった平成23年度においては,非平衡定常状態間の遷移の特徴付けについて,これまでの研究とは大きく異なるベクトルポテンシャルを用いた定式化に成功した.これは,平成24年度の研究の基礎となる,大きな成果であると考えられる.一方で,フィードバックがある状況での非平衡関係式・応答理論については,まだ形式的表現しか得られておらず,具体的な系での性質を研究することは平成24年度の課題である.
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度においては,まず当初の計画通り,情報処理の素過程について理論的研究を行う.また,上記のようた平成23年度においては十分に研究することが出来なかった,フィードバックがある状況での非平衡関係式・応答理論の具体的な系への適用や,最適制御理論との関係を研究する予定である.さうに,平成23年度の成果である非平衡定常状態間の遷移の新たな特徴付けを応用することで,非平衡定常系に特有の情報処理の性質を明らかにしたい.
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