2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23840036
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
佐々田 槙子 慶應義塾大学, 理工学部, 助教 (00609042)
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Keywords | 流体力学極限 / 平衡揺動問題 / 非勾配型モデル / 国際情報交換 / フランス |
Research Abstract |
非勾配型の系に対するスケール極限の研究は、非平衡状態での統計物理の諸問題に対する理解が深まるに従い、ますます重要になっている。本年度は、特にこうした問題の中でも、次のような課題に取り組んだ。 1.ハミルトン系の代表的なモデルである一次元調和振動子鎖に、確率的なノイズ項を加えたモデルに対し、拡散型スケール変換のもとでの平衡揺動問題を研究し、線形化熱方程式が導出されることを証明した。ハミルトン系で与えられたミクロモデルから、拡散型のスケール変換のもとでのスケール極限により熱方程式を導出することは、非平衡統計力学における最も重要な課題の一つであり、長年にわたり盛んに研究されてきた問題である。本研究は、ハミルトン系で与えられる調和振動子鎖のエネルギーの拡散が、熱方程式で与えられるということを、ノイズを加えるということにより、数学的に厳密に裏付けるものである。この結果は、本研究課題の「研究の目的」で目指した「非勾配型の系に対するスケール極限の手法の、ランダムなノイズのあるハミルトン系への拡張」そのものであり、本年度の研究目的を予定通り達することができた。さらに、本結果を論文としてまとめ、専門雑誌に投稿した。 2.非勾配型の系に対するスケール極限のうち、特に非平衡問題を扱う流体力学極限や揺動問題の証明には、ミクロな系が平衡状態に近づくスピードを評価するために、ミクロな系の生成作用素に対するspectral gapの評価が必要不可欠である。同時に、このspectral gapの評価は、証明において常に困難が伴う部分でもある。そこで、本年度は、このspectral gapの問題に特化した研究も行い、binary collision processという一般的なモデルを導入し、それらの系に対して一般に適用できるspectral gapの評価手法を与えた。また、この手法が実際に様々なモデルに応用できることも示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ランダムなノイズのあるハミルトン系に対するスケール極限の研究を本年度の最重要課題と考えていたが、その結果が得られ投稿まで至った。さらに、その研究に加え、spectral gapの研究において、非常に簡潔かつかなり高い一般性を持つ結果が得られたことは、当初の計画以上の進展であった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、今年度に得られたspectral gapの手法を応用し、あらたなハミルトン系に由来するミクロモデルに対するスケール極限の研究を行う計画である。より具体的には、locally confined hard spheresと呼ばれる近年盛んに研究されているモデルに対する流体力学極限を研究しようと考えている。さらに、研究計画に沿って、数値シミュレーションも行っていく。この目的は、非勾配型の系に対するスケール極限から得られる拡散係数の評価の手法を開発するためである。この拡散係数の評価手法の開発は、今後の本研究の主要な課題である。
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Research Products
(9 results)