Research Abstract |
有機半導体デバイスの実用化に向けては,その心臓部である有機電荷効果トランジスタの高性能駆動が不可欠である.しかしながら,現状の高性能有機半導体の開発の現状を鑑みると(1)簡便かつ高効率な半導体材料の合成法,(2)半導体材料の高い化学的安定性,熱的安定性,優れたデバイス耐久性,(3)アモルファスシリコンを超える高移動度(>8cm^2/Vs),(4)溶液プロセス可能な高い溶解性,これらの要請をすべて満たす材料は未だにない.本研究において,研究代表者はこれらすべての要請を満たす材料を新たに設計・合成し,実現したので以下詳細を述べる. これまで,溶液プロセス可能な高性能有機半導体材料は,直線型の高い対称性を有するπ電子コアを用いたものが主である.しかしながらこのような分子設計に基づいた材料は,高い溶解性と高い熱安定性をかねそろえたものがないため,実デバイスを実現するには大きな問題があった,そこで研究代表者は,新たに対称性を落としたV字型分子に着目し,簡便かつ高効率な新たな合成法を開発した.合成した化合物は,高い化学的安定性,そして相転移温度が200度を超えるこれまでにない熱安定性を有する興味深い物性を示した.これを用いた有機電界効果トランジスタを作製したところ,世界最高レベルの移動度8cm^2/Vsを実現し,かつバイアスストレスの影響を受けにくいデバイスであることを明らかとした.また,合成した新規材料は種々の有機溶媒に対して高い溶解性を示し,溶液プロセスで単結晶を成長させる手法を用いて優れたトランジスタ性能を実現した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
一年目の年次計画としては,移動度1cm^2/Vsを超える高性能有機半導体の材料の開発を目標としていたが,すでに世界最高レベルの移動度8cm^2/Vsを実現したため,本研究の達成度としては計画以上にしたと言える.
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進に関しては,材料の観点からは,硫黄元素に変わる典型元素を導入することで,その構造とデバイス性能との相関を明らかとする.特に,導入する典型元素によりエネルギー準位ならびに分子軌道が大きく異なるため,誘導体にも興味が持たれる.また,デバイス評価としては,測定温度を変えながらデバイス性能の影響について検討を行う.これは,実デバイスとするには,素子作製プロセスならびにデバイス駆動下において高温状態になることが想定されるため,素子の耐久性が重要となるためである.更に,物理の観点から,電子伝導機構を明らかとするべくホール効果測定を行い,作製したデバイスがホッピング伝導であるかバンド伝導であるかを明らかとする.
|