Research Abstract |
平成23年度,研究員は,霞ヶ浦底泥,霞ヶ浦の湖水中の懸濁粒子に含まれるリンの分画を行うことを目的とし,研究を遂行した.底泥からのリンの溶出はこれまでも指摘されてきたが,そのメカニズムは,底泥に含まれるリン化合物の形態に依存すると考えられている.そこで近年新たに開発された,水酸化ナトリウムとEDTAを用いて抽出を行ったサンプルについて,核磁気共鳴装置(31P NMR)を用いた分析により,底泥,懸濁物に含まれるリン化合物の定量を試みた.この分画方法は,無機態のリン(ポリリン酸,ピロリン酸,オルトリン酸)および,有機態リン(モノエステル結合態リン,ジエステル結合態リン)などを分析することが可能である.研究員はこの分析方法を用いて,霞ヶ浦湖心における観測を,夏,冬の合計4回行った. 観測を行った結果,夏,冬ともに,水中の懸濁粒子中には生物由来のリンがより多く含まれており,底泥には,オルトリン酸態リンが多く含まれていた.生物由来のリンに関しては,水中の懸濁粒子中には,モノエステル結合態リンがジエステル結合態リンの3倍以上存在していることが明らかになった.それに対し,底泥中に含まれるモノエステル結合態のリンは,ジエステル結合態のリンとほぼ同程度存在していた.これは,懸濁粒子中のモノエステル結合態リンが,分解されたか,ジエステル結合態のリンが増加した可能性を示している.このモノエステル結合態リンは,元々はジエステル結合態のリン脂質であり,この分析結果は,リン脂質の分解,あるいはDNA-Pを多く含むバクテリアの影響であると考えられる.以上の結果から,霞ヶ浦の底泥,懸濁粒子中には分解がされ易いジエステル結合態のリンが多く含まれ,それが湖沼内のリンの動態に重要な役割を果たしていることが明らかになった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の最終目標は,リンの動態をモデル化することである.この目標を達成するためには,霞ヶ浦に存在するリンの形態と,その動態を詳細に観測する必要があり,平成23年度はその形態の分析手法の開発を行い,主に存在する形態についても極めて重要な知見を得た.以上の理由から,研究はおおむね順調に進展していると判断できる.
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Strategy for Future Research Activity |
形態の分析が可能になったため,今後は時間的な変動の解析を行い,実験を同時に行うことでそれらの動態をモデル化する予定である.特に,風による巻き上がりとリン画分との関係を詳細に把握することは浅い湖沼におけるリンの動態の把握において極めて重要な位置づけである.有機態リンの分解実験については,懸濁粒子の100日分解実験を行う予定である.巻き上がった底泥を対象とした実験については,pHなどの条件を設定し,実験を行う予定である.これらを行うことによって,これまでリンについて開発されてきたモデルをさらに発展させ,霞ヶ浦におけるリンの動態に影響を与えるファクターについて解析を行う予定である.
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