2023 Fiscal Year Annual Research Report
硫黄同位体比分析による水銀朱の流通と縄文時代の交流網の解明
Project/Area Number |
23H04988
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Research Institution | 出雲市役所市民文化部文化財課 |
Principal Investigator |
幡中 光輔 出雲市役所市民文化部文化財課, 地方公務員文化財行政職
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 縄文時代 / 水銀朱 / 交流網 |
Outline of Annual Research Achievements |
縄文時代に赤色顔料として使用された水銀朱は、原料の辰砂を採掘できる鉱山が限定され、当時の社会において稀少価値が高かった。出雲・石見地方を含む列島西部日本海側には辰砂鉱山が認められないものの、水銀朱が付着した出土品が多い。本研究は、列島西部日本海側の縄文時代遺跡の出土品に塗布された水銀朱の産地を推定し、水銀朱消費地としての様相や当時の交流網に迫ることを目的とした。 水銀朱の産地推定には、硫黄同位体比分析が有効な手段の一つである。従来の分析では10mg程度の試料が必要で、出土品表面に残る僅かな水銀朱を対象とする分析が困難であった。しかし近年、試料からの二酸化硫黄ガスを高感度化する装置が開発され、「目に見える一粒」(約10μg)で測定可能となった。この方法を援用して出雲市京田遺跡の異形土器付着の水銀朱を分析すると北海道産であることが判明し、極微量の硫黄同位体比分析の有効性を確認した。 本研究では分析範囲を広げ、列島西部日本海側と瀬戸内地域の縄文時代後・晩期の11遺跡において合計31点の出土品を対象に、研究協力者および各資料所蔵機関の全面的な協力を得て水銀朱を極微量採取し、硫黄同位体比分析を実施した。分析の結果、既往の分析結果を含め、分析値によって5つのグループに大別できることが判明した。そのため列島西部日本海側には特定の鉱山から限定的に水銀朱が持ち込まれたのではなく、北海道のほか日本列島南部を横断する中央構造線付近にある鉱山など、複数の鉱山由来の水銀朱が流通していた蓋然性が高く、当時の交流網は予想以上に発達していたことが明らかになった。 本研究の分析成果を考古学研究会で研究発表したほか、出雲弥生の森博物館において成果を展示し、広く一般に公開した。今後は分析成果の多角的な検討に加えて、列島西部日本海側の水銀朱使用の起源と変遷を追究することで、縄文社会の交流の具体像を明らかにする。
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Remarks |
出雲弥生の森博物館における2024年春季企画展「科学の力で解き明かす出雲の歴史」(2024年3月9日~5月20日開催)にて本研究の成果の一部を展示。
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