2023 Fiscal Year Research-status Report
キリシタン時代における「隠匿」の神学をめぐる実証的研究
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23K00096
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
折井 善果 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 教授 (80453869)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | キリシタン / 隠匿 / dissimulation / イエズス会 / 適応主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究一年目となる当該年度は、先行研究の整理と、リサーチメソッドの探索、および国内外の研究者との意見交換に多くの時間を費やした。中でもとりわけ「隠匿」の概念を擁護し、近世カトリック教会法における規範意識(Normative knowledge)の形成に大きな役割を果たした教会法学者マルティン・デ・アスピルクエタに関連する研究プロジェクトへの継続的な参加を通じて、多くの示唆を得た。また、「隠匿」が海外宣教において、具体的にいかなる事例において適応されうるかを検討した、ゴアのイエズス会の事例の考察にも着手することができた。「隠匿」をある程度許容する方向でまとめられたこのインドの事例は、日本宣教を主導した同会巡察師アレッサンドロ・ヴァリニャーノの「隠匿」をめぐる見解との共通性がみられることから、「隠匿」はキリシタン時代の日本を越えた、より広い視野で検討されるべき概念であるとの理解に至った。また、「隠匿」は、宣教の妨げになりかねない教義をとりあえず広めないという、宣教方針を意味する一方で、危機的状況において宗教的アイデンティティーを隠すという意味にも拡大して用いられた。これが、クルアーンにおける「タキーヤtaqiyyah」の教えに類似するという指摘は、多くの来日宣教師の出自であるイベリア半島で生じた、イスラーム教からキリスト教への強制改宗と、それによって生じた「隠れ」の実践という興味深い相関性を、本研究に提起した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
国内外の関連する研究者との意見交換が、予想以上に進んだため。
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Strategy for Future Research Activity |
①宣教師による「隠匿」の思想的源泉について、②宣教地における「隠匿」理論の形成過程について、に大別して、今後の研究を進めていく。①については、マルティン・デ・アスピルクエタに加え、マヌエル・サら16世紀のカトリック倫理神学者の著作をさらに読み進め、「隠匿」の神学的語義の形成過程を詳しく検討する、②については、海外宣教における「隠匿」の是非をめぐる議論(主にゴア)を検討する。具体的にはゴアの神学者フランシスコ・ロドリゲスを想定している。上記に直結する海外での研究発表が現時点で決定している。
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Causes of Carryover |
調査予定の資料群が、所蔵館の一次閉館により使用不能となり、調査が延期になったため、次年度使用額が生じた。そのために生じた余剰については、資料調査のための書籍購入、および、次年度の調査出張のための旅費で支出予定である。
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