2023 Fiscal Year Research-status Report
11-12世紀フランスにおける音楽理論と実践:トナリウスの校訂と分析
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23K00115
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
西間木 真 東京藝術大学, 音楽学部, 准教授 (10780380)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | トナリウス / フランス式ネウマ記譜法 / pseudo-Odo / Musica artis disciplina / Petistis obnixe / Dialogus de musica |
Outline of Annual Research Achievements |
年度の前半は、一連のアキテーヌ・トナリウスのトランスクリプションの確認を行なった。同時にヌヴェールのグラドゥアーレ(フランス国立図書館新収ラテン語1235写本)に書写されたトナリウス (141v-146葉)を校訂した。フランス式ネウマ符で記譜されたこのトナリウスでは、旋法ごとに旋法の規則が平明な対話形式で説明されている。分析の結果、この対話部分は『音楽についての対話』の記述をより簡単なラテン語でパラフレーズしたものであることが明らかになった。年度の後半は、疑オドの名に帰されるMusica artis disciplina (11世紀)の校訂に取り組んだ。現在5写本で伝えられるこの理論書は、当初の計画では念頭においていなかったが、特定の音程内において可能な音の組み合わせとそれによって作られ得る旋律の数が論じられており、各旋法の旋律をパターンごとに分類するトナリウスを理論的に分析する新たな足がかりとなると考えられる。本研究で作成したヌヴェール写本のトナリウスとMusica artis disciplinaのエディションは、現在準備中の『音楽についての対話Dialogus de musica』の付録として刊行する。 日本語では、擬オド『音楽についての対話』の序文として流布したPetistis obnixeを、過去の研究で作成した自らのエディションに基づいて訳出した。この「序文」は新しい記譜法に基づくソルフェージュ教育の成果、典礼聖歌レパートリーの検証作業、典礼聖歌集の編纂作業について書簡の形で簡潔に述べられており、短いながら11世紀における音楽教育および記譜法の改革の様子を伝える重要な文献といえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では予定していなかったMusica artis disciplinaの校訂作業を行なったため、研究状況はやや遅れている。写本の数が5点と少なく、そのうち4点は同系統であるため、さほど時間がとられないと考えていたが、文体や内容が難解であるだけではなく、現存しないsourceによると思われる全写本に共通の誤記も散見され、大幅に作業時間を割くことになってしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
ヌヴェールのグラドゥアーレのトナリウスは、フランス式ネウマ符で記譜されているが、一連のアキテーヌ・トナリウスとのつながりが指摘されている。そこでアキテーヌ・トナリウスとレパートリーおよび旋律の比較を行い、影響関係を明らかにする。同時に過去の科研費研究助成で作成した理論書的なトナリウス断片 (フランス国立図書館7185)、およびそれと語彙の上でつながりのみられるカンブレとグルノーブルのトナリウスについても比較分析を行う。アキテーヌ式ネウマおよびフランス式ネウマで記譜されたトナリウスのレパートリーのインデックスを作成し、11-12世紀フランスにおける音楽レパートリーをデータベース化する。
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