2023 Fiscal Year Research-status Report
マンガ、広告、娯楽映画、スナップ写真等の大衆文化とシュルレアリスムの関係の諸様相
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23K00126
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
鈴木 雅雄 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (20251332)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | シュルレアリスム / 大衆文化 / 視覚文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
今回の研究はシュルレアリスムと大衆文化の関係をテーマとしたものであり、(1)この運動のなかでのキャラクター表現に関する理論的考察、(2)マンガのコマ構造などを意識した、シュルレアリスム美術におけるフレームの役割の解明、(3)第二次大戦後における同時代の大衆文化との関わりの研究、という3つを大きな柱としている。当初からの予定通り、2023年度はこれまでも続けてきた(1)の考察を深めながら、(2)と(3)の作業を進めるための資料収集など、準備作業に時間を使った。 上記(1)については、論考の形でアウトプットすることはできなかったものの、2023年末のシュルレアリスムと展示をめぐるシンポジウムでの発表は、これと深く関わっている。1947年の国際展における、さまざまな神話的存在に捧げられた祭壇の展示を、一種のキャラクター化の作業として捉える視点を提示するものだったからだ。また直接シュルレアリスムには触れていないが、大学の紀要に発表した、19世紀後半から20世紀初頭にかけての欧米におけるマンガ表現に関する研究は、近代的キャラクターに関する考察であり、この課題とも深く関わっている。 また2024年は『シュルレアリスム宣言』が発表されてから100年目に当たり、フランスだけでなく世界中でさまざまな催しが予定されている。私自身も多くの研究者を招いた連続講演会を今年(2024年)から来年前半にかけて開催する予定だが、その成果を単行本化できることになり、その準備作業にも時間を使った。大衆文化との関係だけをテーマにした企画ではないが、関連した問題が話題になることが予想され、具体的な成果物が得られるのは来年度だとしても、重要な進展だったと考えている。 また研究論文といったものではないが、商業誌でシュルレアリスムをめぐるかなり長いインタビューを受け、今回の研究を広く発信していく機会となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2023年度は、コロナ禍の関係で期間を延長した研究課題「ポスター、絵本、マンガ等、近代の大衆的静止イメージ・メディアの原理に関する研究」の最終年度でもあり、そちらにも一定の時間を割いたので、予定していたコラージュ作品の「元ネタ」に関する調査や、第二次大戦後のシュルレアリスムに関する資料探しなどは、想定よりやや遅れ気味な面もある。他方シュルレアリスムにおけるキャラクター的表現を理論的に捉え直す作業については、ある程度考察を深めることができたと考えている。 近代的静止イメージ・メディアに関する研究課題の成果をまとめるにあたり、キャラクターとフレームの関係をあらためて考え直すことになり、その成果はまず所属大学の紀要に発表したが、2024年秋に刊行予定の複数の著者による論文集所載の論考では、同じ問題をより包括的な形で論じている。特に後者の論考は、この数年考え続けてきたキャラクターの問題に、何らかの答えを出そうという意図をもって書かれた。直接シュルレアリスムを論じるものではないが、この機会に、近代的キャラクター表現においては物語よりイメージが先行するという事実と、それが持つ意味について考察を深めることになり、こちらの課題を進めるにあたっての指針を得ることができた。 また概要でも書いたように、2024年がシュルレアリスム運動の誕生から100年目であることをきっかけとして、1年半にわたる8~9回ほどの連続講演会を企画することになった。大衆文化との関係という観点からも有益な示唆を得られる機会になることが期待できるが、準備は順調に進んでおり、5月には第1回が開催の予定である。 なお資料調査についてはやや遅れ気味の部分があると書いたが、一定の進展はあり、特に第二次大戦後のシュルレアリスムのなかで重要な役割を果たしたクロード・タルノーについての資料収集では、初出誌を入手するなどの成果があった。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度の作業は、①シュルレアリスムをめぐる講演会の持続的な開催、②コラージュ作品での使用図版や運動の機関誌に掲載された図版の出所と思われる雑誌や新聞に関する調査、③第二次世界大戦後のグループにおける大衆文化との関係の変化を考えることを目的とした、シュルレアリストたちの美術論・イメージ論に関する調査の3つを柱にしたいと考えている。 連続講演会については発表者も決まり、2024年度後期以降の日程を決めれば、ほぼ全体像が確定する。それをもとにした単行本の準備は来年度になるが、まずは着実に回を重ねていきたい。 コラージュ作品等の「元ネタ」に関する調査では、とりわけアンドレ・ブルトンのコラージュを重視し、ミシェル・ポワヴェールらの調査を参考にしつつ、その成り立ちを研究する。だが運動の機関誌に掲載された、雑誌や新聞などから切り取られたと思われるイメージにも出所のわからないものが多く、これに関する調査にも時間を使いたい。後者の作業では1920年代から1960年代までの機関誌全体を対象とするが、第二次大戦後を重視するこの研究にとっては、とりわけ『ブレッシュ』や『アルシブラ』など、60年代の機関誌が重要そうだという感触を持っている。 第二次大戦後のグループに関する作業としては、シュルレアリストたちの画家論、とりわけポップアートに言及したようなテクストの調査を優先するとともに、映画論や、数は多くないがテレビやマンガに言及した文章をリストアップし、そこで論じられている対象についても調査することで、これらのテクストの歴史的な位置や価値を明確にしていきたい。 これらの調査には、やはりフランスで調査することが有効だが、2024年の夏はパリでオリンピックが開催され、滞在に不自由な面があるので、夏の出張は9月前半に短期間行うのみとし、2025年3月に集中して作業したいと考えている。
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Causes of Carryover |
2023年度は、コロナ禍のせいで延長していた別の科研費課題の最終年度に当たり、そちらの作業に時間を取られたことが、こちらの課題がやや遅れたことの一つの理由である。また2024年度から2025年度前半にかけて、シュルレアリスムをめぐる連続講演会を開催し、その結果を単行本化できることが急遽決まったので、多くの発表者を招聘するためには、次年度の予算に余裕のあることが望ましいとも思われた。 2024年度はこの課題に集中し、講演会を持続的に開催するとともに、フランスへの出張も行う予定なので、予算はこれらに当てることになる。
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