2023 Fiscal Year Research-status Report
文化資料論の再構築と海外発信ー「狂歌本」「摺物SURIMONO」を紐帯としてー
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23K00151
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
高橋 章則 東北大学, 文学研究科, 名誉教授 (10187990)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 狂歌 / 地域文化人 / 書物・出版 / 摺物(SURIMONO) / 日本文化研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
「絵入狂歌本」「狂歌摺物」と呼ばれる画像・文字混肴の資料群は挿絵画師と狂歌作者の協業の賜であり、作成には「狂歌連」・版元が関与した。本研究は、この資料群の制作事情を雄弁に物語る「狂歌」関連資料を多角的に解析し、画師と狂歌関係者をめぐる研究視角と導出した知見とを国内外の資料館・美術館・当該資料の累代保有者と共有し、「狂歌」関連資料公開の道筋を社会的・国際的に形成すること、を主たる目的とする。 ここに言う「狂歌」関連資料とは、①作品集制作前に全国に配布された「兼題広告」、②作品集「狂歌本」、③応募作品の成績一覧表「甲乙録」、④同好者への配布物「摺物SURIMONO」、⑤作品制作時に参照した地誌などの「学芸書」や「浮世絵風景画」などである。 江戸後期の出板の隆盛を背景に享受層が飛躍的に拡大した「狂歌」界では、作品制作のための(a)書物を通じた幅広い「知識・教養」の獲得、(b)所属する「連」の全国的なネットワークを通じた「出版資本」との連携、(c)「名所・名物」をテーマとした大規模「出版物」の刊行事業を通じた地域文化の紹介などを行った。その痕跡が①~⑤の出版媒体の中に現れる。こうした領域横断的に形成された「文化資料群」と意味付けうる「狂歌」関連資料は研究の専門化によって分節化され、専ら「文学」の研究素材と見なされ、本来維持した「美術史」や「地域史」との連携が見落とされ、資料群を所蔵する作者の末裔すらその文化史・社会史的意義を認識できない状況に陥り、散逸の危機に直面している。 本研究では、国内・外に保存される広範な「資料群」を用いた狂歌文化の掘り起こしとフラットベットスキャナを用いた資料保存とを通じて、日本の文化研究の新局面を創出する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は「狂歌」関連出版物とりわけ「摺物」・狂歌入東海道のような「浮世絵風景画」を中心的な研究対象に据えることで、国内外で研究の緒についた美術史学と文学・歴史学の研究上の融合や「狂歌」関連資料の研究資源としての活用という動向・機運の定着を目指す。その際に、「狂歌」を社会史的に検討に加えてきた本研究の総合的な視点の有効性を「文化資料論」として提示し、国内外で共有することを目指す。 あわせて資料館・美術館における共同利用や公開・保存方法について議論を高めることを通じて、新たな文化史研究・文芸社会史研究の局面を創出する。 上記の研究課題に対応した研究計画の第一年次であった2023年度は研究資料の確保を中心に活動を行い、これまで知られていなかった絵入狂歌本をはじめとした出版物のみならず狂歌作者の保有した「史料」(指導資格免許状である「都講免許状・判者免許状」を入手した。これらは今後の研究のみならず海外に向けた公開資料の確保として重要である。また、研究協力拠点の一つであるパリ・セルヌスキ美術館における日本美術展において本研究担当者の発見した「摺物帖」が公開され解題されたこと(2023年9月)は次年度以降の研究調査に寄与するものとなった。 また、地域史研究の団体である「民衆思想研究会」における研究報告(2023年8月)は本研究の意義を広く告知する意味で重要なものであった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は「狂歌」関連出版物とりわけ「摺物」・狂歌入東海道のような「浮世絵風景画」を中心的な研究対象に据えることで、国内外で研究の緒についた美術史学と文学・歴史学の研究上の融合や「狂歌」関連資料の研究資源としての活用という動向・機運の定着を目指す。その際に、「狂歌」を社会史的に検討に加えてきた本研究の総合的な視点の有効性を「文化資料論」として提示し、国内外で共有することを目指す。 あわせて資料館・美術館における共同利用や公開・保存方法について議論を高めることを通じて、新たな文化史研究・文芸社会史研究の局面を創出する。 上記の研究課題に対応した研究計画の第2年次である2024年度は前年度同様に研究資料の確保を中心に活動を行い、「絵入狂歌本」をはじめとした出版物のみならず狂歌作者の保有した「史料」の入手に務める。その際に前年度に入手した「史料」(判者免許状)に関連する地域史料・書籍を重点的に確保する。 一方、本課題の研究意義を国内外に周知する目的から研究協力拠点における調査、具体的にはすでに調査計画についての合意のできた山形県「新庄ふるさと歴史センター」における「地域狂歌資料」についての合同調査を複数回敢行するとともに、アメリカシカゴ大学、フランス・セルヌスキ美術館、小布施北斎館などでの調査と資料保存担当者との協議を実現したい。 また、学会活動との関連では「書物・出版と社会変容」研究会(一橋大学)での年度内報告を目指し研究成果の蓄積に努める。
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Causes of Carryover |
本研究課題における助成金使用額で大きな割合を占めるのが「旅費」である。しかし、2023年度においては研究担当者の健康状態や資料保存機関の開巻スケジュールの過密状況などの理由から海外研究協力先担当者との日程調整が不調に終わったため、次年度使用額が生じた。 2024年度は国内外における調査計画を拡大するなかで次年度使用額を充当した「旅費」の積極的な活用に心がける。
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