2023 Fiscal Year Research-status Report
Late Eighteenth-Century Dutch Reproductive Drawings and their Impact on the Reception of Seventeenth-Century Dutch Art
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23K00180
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
青野 純子 明治学院大学, 文学部, 教授 (20620462)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | オランダ / 美術 / 素描 / 複製 / 受容 / 17世紀 / 18世紀 / 絵画 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は18世紀における17世紀オランダ美術の評価の変遷を分析し、その推移の要因を探ることであり、なかでも18世紀末に制作され収集された複製素描がその評価の形成に果たした役割を考察する。 初年度は18世紀複製素描の全体像を把握することを目的としており、6月にアムステルダムとロッテルダム、そして7月末から8月初めにかけてヨーロッパ諸都市の美術館を訪れ、18世紀オランダの複製素描および17世紀オランダ絵画の作品調査、資料収集を行った。その結果、18世紀オランダの複製素描の多様性と質の高さが確認され、絵画作品の代替としての役割を改めて認識するとともに、複製素描の制作者そして複製対象となった17世紀オランダ絵画について多くの情報を得ることができた。 例えば、複製素描の制作者に関しては、これまでに把握していた素描家以外にも制作に従事した作家の存在が明らかになり、複製素描の流行を支えた制作活動の広がりを確認することができた。また、複製対象に関しては、物語画、風俗画、風景画、肖像画、静物画など、多様なジャンルの作品が選ばれ、画家もレンブラントやその周辺画家、ピーテル・デ・ホーホ、フランス・ハルス、ヤン・ステーン、ヤーコプ・ファン・ライスダールなど、ヴァラエティに富み、様式的特徴も多岐に渡ることが明らかになった。これらの情報を来年度以降分析の予定である。 またケーススタディとして、ピーテル・デ・ホーホの絵画を模写した複製素描に焦点を当て、デ・ホーホの評価が高まった18世紀末において複製素描がどのような役割を果たしのか、当時の競売目録など一次文献を調査し、考察を行った。その結果、瑞々しい水彩の素描において強調された明るい光と色の表現が、「光の画家」と呼ばれたデ・ホーホの名声の確立に貢献した可能性が浮き彫りになり、今後のデ・ホーホやフェルメールらの評価と複製素描の関係を考える礎となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は複製素描とそのオリジナルの絵画の作品調査、および情報の収集と分析を行う予定であり、実際に下記のように6月そして7月末から8月初めにかけて2回の海外調査を行うことができ、また国際シンポジウムにおいて研究成果の一部を発表することができたため、研究は概ね順調に進んでいると言えよう。 【研究調査】これまでに調査の機会のあったアムステルダムの国立美術館、アムステルダム美術館、ハールレムのテイレルス美術館等に加えて、6月にはロッテルダムの個人コレクション、7月末から8月にかけては、ロッテルダムのボイマンス・ファン・ブーニンゲン美術館、パリのFondation Custodia、フランクフルトのシュテーデル美術館、ウィーンのアルベルティーナ美術館において18世紀オランダの複製素描、17世紀オランダ絵画の作品調査を行った。美術館における調査の際には、担当学芸員から作品保存・作品解釈に関する情報を得た。
【研究成果】6月にアムステルダムの国立美術館にて開催された国際シンポジウムPeck Drawings Symposiumにおいて、18世紀オランダの複製素描に関するこれまでの研究成果をもとに、口頭発表を行った。 また、2023年3月に明治学院大学で開催されたシンポジウム「15~18世紀ネーデルラントとオランダ美術における複製/コピー」の内容を、明治学院大学言語文化研究所紀要『言語文化』41号に特集としてまとめ、複製素描に関する自らの口頭発表も論文として執筆し、掲載した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、まず初年度で集めた膨大な情報を改めて精査し、18世紀オランダの複製素描の全体像とその特徴を考察する。具体的には、複製素描の制作者と制作方法、複製対象であるオランダ絵画の種類、コレクターによる複製素描の収集活動などに関して分析を進める。 その上で、次年度以降にケーススタディによる考察を行うために、素描家、画商、競売開催人、素描を収集したコレクター、オリジナル絵画を所有していたコレクターなど、複製素描制作・収集に関わった人物についてさらに調査を進め、また18世紀の絵画市場において複製が果たした役割についても考察を行う。
また、初年度にアムステルダムの国立美術館で開催された国際シンポジウムPeck Drawings Symposiumにおいて研究成果の一部を用いて口頭発表を行ったが、この内容をもとに欧文論文を執筆し、同国立美術館が出版予定の論文集への寄稿を目指す。また研究内容の進展に合わせて、随時国内外の美術館において調査を行う予定である。
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Causes of Carryover |
初年度においては、ヨーロッパ諸都市の美術館において作品調査を実施することができ、また有料の文献資料等も収集したために予算の大部分を使用したが、入手しにくい文献資料があったために、初年度に配分された助成金の一部を翌年度に繰り越すこととなった。 来年度は、国内外の美術館における作品調査に加え、欧文での論文執筆のために、更なる文献資料の収集、美術館からのデジタル図像の購入、英語論文校閲の謝金など、助成金の使用を予定している。
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