2023 Fiscal Year Research-status Report
Research on Ryukyuan painting for succession of traditional East Asian painting techniques and human resource development
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23K00196
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Research Institution | Okinawa Prefectural University of Arts |
Principal Investigator |
喜多 祥泰 沖縄県立芸術大学, 美術工芸学部, 准教授 (00748676)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平良 優季 沖縄県立芸術大学, 芸術文化研究所, 研究員 (10814296)
関谷 理 沖縄県立芸術大学, 美術工芸学部, 准教授 (90939688)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 芸術実践 / 東アジア伝統絵画 / 日本美術 / 日本画 / 琉球絵画 / 琉球岩絵具 |
Outline of Annual Research Achievements |
地域ならではの素材として琉球石灰岩の研究を展開させた。素材については、武村石材建設の協力を得て収集した。令和5年度は、採石業者においても破棄に経費がかる琉球石灰岩の微粉末を研究対象の中心に取り上げた(琉球岩絵具(加工前)と呼ぶ)。琉球岩絵具(加工前)は、継続した入手が可能で活用することによって社会貢献できるが、粒子が細かすぎて、日本画顔料として即活用するには工夫が必要であったが、女子美術大学日本画研究室宮島弘道教授の技術指導による粉砕・撹拌技術の導入により、琉球岩絵具(加工後、以降琉球岩絵具と表記)として活用できた。 琉球岩絵具(加工前)は、95%琉球石灰岩・5%御影石の非常に細かな粉体であり、これを糸満コチンダ―川でとれる粗目の琉球石灰岩の粉体(色見は美しい乳白色)や、鉱山でとれる粗目の琉球石灰岩の粉体(色は力強い黄土色)、また炭酸カルシウムを主成分とする方解末と混合した。混合することに以前より安定した顔料として使用することができた。令和5年度より、研究機関内の大学院生等で共有して研究を進めた。成果として、琉球岩絵具を使用した作品が日本画の学会にあたる第50回記念創画展において創画会賞を受賞し評価を得た。また神戸阪急9階催事場において研究成果展「首里城復元・復興プロジェクト - 大解剖 沖縄県立芸術大学 日本画、彫刻、漆芸 展」を行いおよそ4.450名の観覧者にその成果を発表した。展覧会には、沖縄美ら島財団、沖縄県立芸術大学芸術振興財団等の協力を得て、琉球絵画をはじめ沖縄美術工芸品の修復・公開事業の総括とりまとめや、沖縄美術の人材育成に関わる教員等の研究成果を紹介した。他にも、琉球岩絵具研究、琉球漆芸復元研究等の資料展示により、今後の沖縄美術の技術継承に資する研究発表を行うことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本画の個々の物理的性状は「膠と基底材と顔料」の相関から成立しているが、膠は、熱帯地域に属する沖縄地域においては産業として生産・流通していないため、基底材と顔料についての研究を重点的に行うこととした。その中で、顔料研究において持続可能でありなおかつ社会貢献できる方法で、琉球岩絵具の活用の方向性を定めることができた。研究機関の独自性が得られたこと、県外の公的なスペースにおいて研究発表を行えたこと、学会にあたる発表の機会で受賞できたことは、琉球岩絵具研究が今後の技術継承・人材育成に資する成果として、一定の進捗を得ることができたといえる。 琉球絵画の研究対象として後期の琉球王朝時代に活躍した佐渡山安健筆≪花鳥図牡丹尾長鳥図≫の部分模写を研究機関で行った。本土の古典作品と表現が異なり、巻く事を前提とした薄塗り(墨や染料の多用)や線描、彩色が花鳥図の影響を受けていることが改めて確認できた。初期琉球絵画に大きな影響を与えた中国の画家孫億の影響を濃く残しており、他の琉球絵画と比較することで、絵柄が、貝摺奉行所といわれる行政主導の工房形式で継承されてきたことを再確認できた。 佐渡山安健筆≪花鳥図牡丹尾長鳥図≫については沖縄県立博物館・美術館における熟覧を行ったが、科学分析の研究対象には設定しなかった。白色顔料については、琉球絵画の先行研究を行っている専門家の協力を受け、沖縄独自の素材を使用していた可能性は低いことが分かった。他に沖縄美ら島財団総合研究センター琉球文化財研究室に協力を得て、独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所の行っている顔料研究を参照し、後期の琉球絵画≪琉球美人≫の顔料は鉛白を主成分としていることが分かり、多湿な沖縄地域において使用されてきた顔料のおおよその系統を確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
沖縄において独自に展開した琉球絵画をとりあげることは、日本画の発色原理の物理的性状の特質や、他の東アジア伝統絵画との差異を解明するための基礎研究として有益だと考えた。 琉球絵画の支持体については、特に一部の絹本作品についてはこれまで詳細な研究がおこなわれておらず、解明が期待されている。先行研究において小石川といわれる古代種に近い絹糸が確認されており、希少な研究対象である。こちらは本研究の研究分担者でもある平良優季氏が、「孫億筆≪花鳥図巻≫における技法研究」で絹の織を再現することを試みているが、より総括的な比較分析が求められる。また杉板を支持体とする琉球絵画においても、戦禍で焼失した作品が多く明らかになっていないことが多いが、鎌倉芳太郎氏による記録においてきわめて特徴的な物性についての記述を確認しており、沖縄地域において展開した板絵制作の技法材料の解明が求められる。先行研究として、喜屋武千恵氏による「宮良殿内板戸絵の素材及び技術研究~琉球絵画の一側面~」が挙げられる。今後、関係機関とも連携して、支持体についての研究協力を行い、解明を進めたい。 本研究では、日本画の個々の物理的性状が「膠と基底材と顔料」の相関から成立していることから、その沖縄地域での展開の構造を明らかにし、ひいては東アジア伝統絵画における日本画の構造を明らかにしようとしている。今後は、支持体に着眼した地域研究機関と連携した琉球絵画研究を展開し、サンプルとして近隣地域で交流のあった鹿児島などの九州地域から支持体の板素材を入手し研究する。昨年度は研究発表によって研究成果を実証したが、今年度は研究者に研究協力を依頼し、技術継承・人材育成の現場にフィードバックする。また、引き続き地域ならではの素材として琉球岩絵具の研究をすすめ、新たに沖縄地域における紙の開発についても着眼して、展覧会の開催などを含め展開を模索する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、研究発表展の規模が大きく時間的なリソースを多方面に割けなかったこと、研究対象の損傷がはげしく科学分析やサンプル調査に行えなかったことが挙げられる。 研究対象となる琉球絵画のうち、比較対象とする琉球絵画は熟覧を行い研究しており進捗している。一方で本研究で、科学分析を行い、どのような顔料・支持体を使用していたかなどを明らかにし、沖縄における東洋絵画の展開を分析しようとしているが、科学分析の対象としている琉球絵画≪琉球美人≫は首里城火災での損傷が思いのほか激しく、分析調査の機会を模索していたが、いまだ研究に着手できない。また代替えの研究対象として検討した作品は、これまで研究履歴がなかったこと等の理由から、結果として、保存修復専門分野が設置されていない本学において取り扱うことができなかった。このことからも本研究が沖縄県立芸術大学で進むことの意義は大きいことが確認できた。 琉球絵画は戦禍によりすでに多くが損傷している。関係機関のご尽力により多くの美術工芸作品が、修復を計画しつつ機会をみて調査修復を行い一般公開を模索している。それらの沖縄の美術品は、管理者と所有者が異なるため、関係機関の協力無くしては、研究の進行は難しい。今年度より、琉球王国文化遺産集積・再興事業等の先行する他事業とも関連して、研究を展開していきたい。
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