2023 Fiscal Year Research-status Report
Studies on the Acceptance of Euclid's Elements in Early Modern
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23K00255
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
三浦 伸夫 神戸大学, 国際文化学研究科, 名誉教授 (20219588)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 数学史 / 数学文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
16世紀の西洋で出版された4種の『原論』を検討した.「フランスのアルキメデス」フランソワ・ド・フォワ,通称カンダラによる『原論』(1566)は正多面体を論じた第16巻を加え,さらに1578出版の『原論』には第17巻,第18巻を加えた.他にも希羅版,希仏版なども出版している.彼はまた『ポイマンドレス注解』を執筆している.『原論』に見える彼の数論や幾何学には明らかにヘルメス主義が見え,それはケプラーなどに影響を与えた可能性がある.最も影響を与えた『原論』は,ビリングスリーの英訳(1570),コンマンディーノによるラテン訳(1572),そしてクラヴィウスによる『原論』教科書(1574)であろう.ビリングスリーは商人でもあり,数学の実用面を強調し,現実生活に役立つ注釈などを取り込んでいる.ディーによる数学的序文は数学の実践的要素を説いた内容で,読者をロンドン市民や職人向けに想定した仕上がりにしている.「古典の回復者」コンマンディーノは,内容に手を加えず原典に忠実な訳を提示する.その読者はウルビーノの人文的貴族たちであり,彼らに数学の高尚性を古典としての『原論』訳を通じて伝えた.「16世紀のユークリッド」クラヴィウスによる『原論』は以上の両面を備えたイエズス会学校向け教科書として出版された.彼自身は数学よりも天文学をより重要とみなしたようであるが,その『原論』は多くの読者を得た.その『原論』はイエズス会教育制度の文脈で捉える必要があり,そこではまず会計や測量術などにおける数学の実用性が重要となる.他方で数学を神学と自然学との中間に位置付け,数学の普遍性や高尚性を述べ,また当時盛んに論じられた数学の確実性を強調する立場が序文から見てとれる.その際,数学の歴史の記述を用いて説いているのは興味深い.以上のように当時は目的,読者層に依存した様々な『原論』が出版されていたことがわかる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
17世紀英国で最もよく参照された『原論』の一つにバロウ版『原論』がある.ニュートンなども数学研究に用いたものである.一部テクストは解読したが,諸版があり,それらの入手に時間を要し,当初は本年度の予定であったバロウ版研究は次年度も引き続き進めることになった.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は,西洋の中世から近代にかけての『原論』の数学者・哲学者達による受容,そして『原論』の社会文化における意味を探求する.具体的には,中世から近世まで最も参照された『原論』であるいわゆるカンパヌス版の内容,その後の受容を検討する.次に17世紀における『原論』への改変を検討する.当時『原論』のどのような点が問題であったのか,それをロベルヴァル,ラミ,パルディなどのフランス数学を中心に調査する.また実用数学者たちに『原論』がどのように受容されてたか,古典数学が社会文化にどのような影響を与えたのか,それを18世紀頃の雑誌を中心に見ていく.
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Causes of Carryover |
科研費が確定した時点ですでに学会発表申し込み締め切りであり,学会発表参加ができなかったため,次年度に学会参加費を繰り越して使用する.
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Research Products
(3 results)