2023 Fiscal Year Research-status Report
「物性物理学」確立に関する歴史研究:分野形成の動的過程とその背景要因の探究
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23K00270
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
河野 洋人 独立行政法人国立科学博物館, 理工学研究部, 研究員 (50943552)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Keywords | 物性物理学 / 物質科学 / 分野形成論 / 物理学史 / 科学史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「新たな学問分野はいつ、どのようにして、なぜ出来上がるのか」という問いを、日本の物理学の一領域である「物性物理学」の確立過程の事例研究を通じ、探求するものである。 計画初年度にあたる本年度は、戦後の教育・研究制度の再編成の過程において、物性論に関係する制度的諸要素がどのように展開していったかを中心に、調査・分析を行った。専門教育・研究機関関係した科目・講座の設置状況の調査のほか、日本物理学会・物性論分科会における研究発表、戦後に復刊した『物性論研究』の所収論文、物性論を取り上げた教科書・専門書、物性論をテーマとした物理学者らの座談会記事など幅広い資料について検討し、戦後期に物性論がどのように制度的諸要素を獲得していったか、またこの過程で物性論についてどのような議論がなされたかを、概括的ではあるが分析した。これらの作業によって得られた全体像は、今後本研究が物性物理学の確立過程を調査するにあたり基礎となるものである。 調査の過程で、物理学者・西川正治(1884-1952)、および西川に影響を受けた物理学者・化学者らが、物性論に関する上記の諸展開に大きく関わっていることがわかった。このため、西川については、西川の遺した一次資料の調査を含め、特に取り上げて調査・分析を行った。これにより、ロッシェル塩やエレクトレットといった研究テーマや、X線回折や電子線回折といった実験手法・技術など、西川の研究関心が、物性論に携わった多くの物理学者・化学者の研究に直接的な影響を与えており、これらが「結晶学」の展開とも大きな関わりを持っていたことが、具体的に明らかになった。これらの成果の一部は、学会で口頭発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、戦後の教育・研究制度の再編成の過程において、物性論に関係する制度的諸要素がどのように展開していったかを中心に、調査・分析を行った。これは、当初計画で予定していた、東京大学などの主要な国立大学の講座編成およびカリキュラムの調査、およびこれに関わる研究者たちの経歴や研究業績の調査を含んでおり、おおむね順調に進展していると言える。 本年度はさらに、物性論を掲げる研究会合や雑誌、教科書・専門書、座談会の記事についても検討を進め、今後の研究計画全体の遂行に資する成果を得た。一方、これらの「物性」の諸展開に重要な貢献を果たした西川正治(1884-1952)とその周辺についての調査は、次年度以降に予定している研究者コミュニティの分析にもつながるものとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、本年度の調査成果を踏まえ、物性論を掲げる研究会合や雑誌、教科書・専門書で扱われた研究群の内容について、学説的内容にも踏み込んだより詳しい分析を行う。関係する物理学者・化学者の経歴や研究業績についてもあわせて調査を行い、第3年度に予定している物性論の研究コミュニティの形成過程の予備調査とする。
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