2023 Fiscal Year Research-status Report
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23K00316
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
大井田 晴彦 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (70313179)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | うつほ物語 / 王朝物語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近年進展のめざまし『うつほ物語』研究をいっそう推進すべく、新たな註釈と事典(辞典)の整備をめざす。こうした作業と並行して、2本の研究論文、2本の書評を発表した。論文「仲澄物語の位相」では、同母妹あて宮への許されない恋に悩み死へと向かってゆく源仲澄の物語を論じた。従来、あて宮とのあやにくな関係が強調されてきたが、仲忠との友情の観点からも論じた。また『伊勢物語』『篁物語』などの兄妹恋愛譚についても考察した。仲澄の物語はその死でおわるのではなく、死後も暗い影を落とし続けることも指摘した。研究代表者は早くから「『うつほ物語』作中人物覚書」と題する一連の人物論を発表してきたが、本論文もその一つである。論文「「労あり」「らうらうじ」攷」は、王朝文学の要語である「労あり」「らうらうじ」についての考察である。「労あり」は、『大和物語』あたりから見られ、『うつほ物語』で頻出するが、その分布は巻によって偏りがあり、「内侍督(初秋)」に集中する。人物の性格だけでなく、景物・風景にも用いられる。この語が繰り返され、語脈を形成し、結ばれなかった男女の恋を非日常の時空において結び直してゆく、長篇の転換点に位置する「内侍督」の主題と方法を明らかにした。また『うつほ物語』の「「らうらうじ」については、「清ら」「清げ」な「かたち」に対して心の美質をいう語であることを明らかにした。書評 宮谷聡美著『歌物語史から見た伊勢物語』」および書評「勝亦志織著『平安朝文学における語りと書記』では、『うつほ物語』や歌物語について幅広く論じたそれぞれの論著を、物語の研究の現在の地平から批評した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究遂行に必要な環境や資料は、これまでの蓄積もあり、着々と整備されてきており、比較的円滑に研究を始めることができた。現在は、首巻「俊蔭」からゆっくりではあるが、少しずつ地道に註釈作業や現代語訳を進め、また重要事項のデータ化・整理も行っている。また、『うつほ物語』に関する論文も2本発表することができた。本研究は、長期にわたるもので、完成までなお多くの歳月を要する。また不慮の事態によって研究が停滞する可能性もあるが、そのような場合でも余裕をもって柔軟に対処しつつ、堅実に遂行してゆきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
『うつほ物語』の註釈作業を、少しづつ進めてゆく。具体的には校訂本文の作成、語釈、現代語訳、評釈などを総合的に行い、註釈の礎稿を作成する。また、これらの作業と並行して、重要事項(諸本、和歌や漢籍・仏典などの典拠、他物語の影響、史書との関連、作中人物総覧、和歌総覧など)の整理・分類を行い、将来の『うつほ物語事典』の基礎とする。また、これらの作業で得られた知見を生かし、研究論文を発表する。また、一般読者にも『うつほ物語』の魅力と面白さを伝える、入門書を執筆する。研究期間内の「沖つ白波」までの註釈作業完成をめざす。
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Causes of Carryover |
初年度ということで、経費の支出は控えめにした。パソコンなどの機器購入は次年度以降に見送った。また、当初の見込みよりも研究書などの文献資料の購入が少なかった。これらの理由により次年度使用額が生じた。
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