2023 Fiscal Year Research-status Report
Sense of nonplace-ness in the 19th-century American Literary Canon
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23K00377
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
竹井 智子 京都工芸繊維大学, 基盤科学系, 教授 (50340899)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
池末 陽子 龍谷大学, 文学部, 准教授 (10792905)
大川 淳 京都ノートルダム女子大学, 国際言語文化学部, 准教授 (50755288)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 空間 / 非場所 / 場所の感覚 / エドガー・アラン・ポー / ハーマン・メルヴィル / ヘンリー・ジェイムズ |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度には、本研究に関わる研究者全員が、非場所の概念を含む、空間的転回以降の場所と文学研究に関する文献を検討し、本研究の基本概念の確立と共有をすすめた。同時に、各自で場所・非場所という観点から文学テクストを分析し、発表した。 ポーを巡っては、日本英文学会関西支部大会シンポジウムにて、ポー文学における「現実と幻想のあわい(非場所的空間)」について、女の語りに着目した発表を行った。また、『エコクリティシズム・レヴュー』 (16) に掲載された論文「災難と救済――ポーとアポカリプスの寓話」では、災害や災難といった現実から逃れるための場所を虚構上で提供する恐怖作家ポーにおける「沼」や「海」の表象について、アポカリプスおよび人新世の観点から考察した。 ホーソーンを巡っては、論集『ロマンスの倫理と語り』(開文社)にて、本来自己に属していると思われる皮膚が、客体化され他者によって改竄させられる身体的「空間」として描かれることを分析した論考(「皮膚、テクスト、鏡」)と、フィクショナルな空間における移動(「花崗岩のような群衆」)に関する考察を発表した。また、6月には日本ナサニエル・ホーソーン協会全国大会のワークショップにて、共同体の空間の中で共感によって傷つけられる皮膚について検証した発表を行った。 メルヴィルを巡っては、日本アメリカ文学会関西支部7月例会のミニ・シンポジウムにて「「判読する洞察力」――メルヴィルの著作編集の困難」の題のもと、メルヴィル独自の英語表現・造語は、現存の英語に新たな意味を付すという、アメリカという場所に根付いたものでありながら、そこからの非場所化=脱構築であると論じた。 ジェイムズを巡っては、日本ナサニエル・ホーソーン協会関西支部研究会11月例会において、ジェイムズの小説においては描かれない場が劇作の舞台となっていることを指摘し、舞台の非場所性を示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね計画通り進行している。当初、初年度に予定していたアメリカ東海岸への調査渡航は円安および現地の物価高騰もあって見送り、国内で可能な予備調査に注力した。一方、2年目に予定していた研究調査を前倒しで行い、有益な資料が得られた。口頭発表や論文による発表は予定通りに進められている。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、引き続き文献研究により、文学テクストをめぐる場所と非場所研究についての調査を進める。前年度から引き続き、読書会を通して包括的な理論に関する文献および概念の共有をすすめる。また、19世紀後半のアメリカ文学テクストを場所と規模という観点から分析した文献(Hsuan L. Hsuによる)については、2024年12月に予定されている日本ナサニエル・ホーソーン協会関西支部研究会読書会で報告を行う。 これと並行して、各自で以下の研究を進める。 ポーを巡っては、彼の自然譚及び冒険譚を中心にエコゴシックと場所(没場所)の感覚について研究を進める。 メルヴィルを巡っては、傭兵による中世の戦争から、愛国心を煽り国民を動員する近代戦争への変化を考察する中で、母国という場所に結び付く戦争と、それに批判的な(=非場所)の視点を『イスラエル・ポッター』から読み取る論考を準備中である。また、歌やギター演奏を記録する手段のなかった時代の音楽の在り方と作品の主題の関係を、ドゥルーズ=ガタリの「領土化」や「リトルネロ」の概念を用いて『ピエール』を論じる予定である。さらに、場所と法の関係性を検証し、マンハッタンを舞台とする「バートルビー」における場所の感覚と、語り手の帰属意識について分析する作品論を執筆する予定である。 ジェイムズを巡っては、短編「モード=イーヴリン」と中編『抗議』を中心に、作家のコスモポリタニズムと帰属しえない場所すなわち非場所的場所の感覚をめぐる論文と、20世紀初頭の欧米列強の経済的・地理的拡大と、移動が生み出す価値についての論文の執筆を進める。
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Causes of Carryover |
円安の影響および本事業に携わる全ての研究者間での日程調節が困難であったため米国への渡航調査が延期となったため、次年度の使用額が生じた。最終年度に渡米調査を実施する計画である。
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