2023 Fiscal Year Research-status Report
イングランド内乱期の教育パンフレットに見られる教育改革の実像と人文主義思想
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23K00393
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Research Institution | Tsuruoka National College of Technology |
Principal Investigator |
菅野 智城 鶴岡工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (90795410)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | イングランド内乱期 / 教育パンフレット / ハートリブ・サークル / サミュエル・ハートリブ / ウィリアム・ぺティ / ジョン・ミルトン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はイングランド内乱期に出版された教育パンフレットを検証し、実利主義と人文主義が対立・共存する教育改革の実像を探ることを目的としている。 当該年度においては、1640年代にハートリブ・サークルから出版されたジョン・ミルトンの『教育論』(Of Education)とウィリアム・ペティの『提言』(The Advice of William Petty to Mr. Samuel Hartlib)に焦点を当て、『ハートリブ書簡』(Hartlib Papers)を援用しつつ検証した。ミルトンが人文主義的教育論を展開して国家のリーダー育成を目指したのに対し、ペティは貧民救済、ものづくり教育をとおして市民の経済的自立と社会の利益創出を目指していることに着目し、研究代表者が所属する学会(英米文化学会・大会)で「イングランド内乱期の教育パンフレットに見る人文主義の位置づけ―ペティとミルトンの教育論―」として口頭発表をした。 また『提言』が提示する三つの教育施設「学問の作業場」(Ergastula Literaria)「技術の修練場」(Gymnasium Mechanicum)「学術院」(Nosocomium Academicum)の内容を検証し、教育インフラの整備の必要性を説くペティがものづくり教育を中心とする実利主義的教育論を展開しながらも、それが自然科学分野を究めた知的エリートの手による教育論であるという点に、ミルトンとの共通項を見出した。そこには思想的に異なる教育パンフレットを包括的に出版することで影響力を保持し、情報ネットワークのハブ的機能を果たそうとするハートリブ・サークルの戦略を見ることもできる。以上の考察について、研究代表者が所属する学会(十七世紀英文学会東北支部・例会)で「ハートリブ・サークルをめぐるの教育パンフレット―ものづくりと人文主義」として口頭発表をした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度においては、ペティとミルトンの教育パンフレットを中心に、ハートリブ・サークルに関係する人物の関係性を『ハートリブ書簡』を分析することで進め、ターンブルとウェブスターによるハートリブ研究との整合性を検証することができた。その中で、ミルトンが示したプライベート教育構想の信奉者である詩人ジョン・ホール、ペティの複写器発明に対して懐疑的な姿勢をとる物理学者ロバート・ボイル、その一方でペティと関係の深い数学者ジョン・ペルや哲学者トマス・ホッブスをはじめとする、ハートリブ・サークルから派生する新たな関係人物へと調査範囲を広げることができた。これらの人物の相関関係を検討する中で、決して一枚岩ではないハートリブ・サークルの性質を認めることができる。 また、1641年に教育思想家コメニウスをイングランドに招聘できたことは、議会派と王党派の政治的な対立構造とは別の文脈、つまり市民の自立による国家の発展と利益創出を目指す科学思想と教育の団結が導いた出来事であり、そこに国内外に幅広い人脈をもつハートリブのオーガナイザーとしての資質を認めることができると位置づけた。 以上の研究成果について、研究代表者が所属する学会(英米文化学会、十七世紀英文学会東北支部)で口頭による研究発表として報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間の2年目となる令和6年度では、ハートリブ・サークルによって出版されたミルトンとペティの教育パンフレットに関連する人物の相関関係を、議会派と王党派の政治的対立構造の文脈の中で検証する。内乱期における教育改革は保守的、伝統的思想に対する反動から生まれたものでありながら、政治的文脈を超えたところに科学思想の団結を生み、後の王立協会設立に影響を与えたという意味では、ハートリブが果たした役割は大きい。この点について、ハートリブ・サークルの影響力を王党派も含むイングランド全体の評価の点から検証する。 また、ミルトンとペティに加え、ハートリブとともに活動し社会政策の実現を議会に働きかけたジョン・デュアリの教育パンフレット『改革された学校』(The Reformed School)と彼に関する文献の調査をとおして、内乱期における教育改革の実像についての考察を進める。 以上のことを論じるために、ハートリブ研究の先駆けとなったG.H.ターンブル、チャールズ・ウェブスターをはじめ、歴史研究の観点からローレンス・ストーン、クリストファー・ヒル、テッド・マコーミックらの研究書を活用する。また、ボドレアン図書館や大英図書館などの国外図書館で一次資料の収集と調査を進め、ハートリブ・サークル周辺の関係者にまつわる利害関係を検証しつつ、その全体像を明らかにする。
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