2023 Fiscal Year Research-status Report
Shaping the Genealogy of 19th Century American Women Literature: History, Mobility and Sympathy
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23K00407
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
大串 尚代 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (70327683)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | ドメスティシティ / アメリカ女性作家 / マリリン・ロビンソン / キャサリン・マリア・セジウィック / シンパシー |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、アメリカ女性文学におけるドメスティシティ(家庭性)とシンパシーとの関係について中心に研究を進めた。具体的には、19世紀に出版されたキャサリン・マリア・セジウィックの『ニューイングランド物語』(1822年)と、20世紀の作品であるマリリン・ロビンソンの『ハウスキーピング』(1980年)に関する研究に結実し、それぞれ研究発表を行った。アメリカにおける公私領域論がアレクシス・ド・トクヴィルの著作によって19世紀初頭に表された際、トクヴィルは女性の領域、すなわち「私」のことを「静かな家事の世界」「狭い枠」と表現している。ここでは動的な公の領域と静的な私の領域が分割され比較されており、そうした考え方は長く続いてきたと思われるが、しかしながらドメスティックな場を、社会から切り離された静かな場とそれほどまでに当然に見なすことができるのだろうか。本年度に申請者が行った研究では、家庭を描いてきた「家庭小説」が、いかに家庭を維持することが難しいのかを描いてきたかを明らかにした。その際、家庭におけるシンパシーが果たす役割についてを検討した。 セジウィックの『ニューイングランド物語』は、アメリカ文学史において家庭小説と呼ばれるジャンルの最初期の作品と言われているが、本作品では家庭は「嵐が吹き荒れる場」として表現されており、血縁によってのみ結ばれている家族のメンバーに共感が欠如していることが示される。公私の領域論をたくみに避けるようにして、本作では家族や家庭のあり方をむしろ外に広げ、血縁とは異なる「家族」が描かれていることを考察した。 ロビンソンの小説『ハウスキーピング』は、「家事」と「家を維持すること」のふたつの意味がタイトルに込められており、「家」を維持することと、家庭を持つ(家族で暮らす)ことが区別されている。ここから、20世紀後半におけるアメリカの「家族」と共感の問題を考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在のところ、オンラインデータベースなどを利用し、資料の収集が順調にいっており、また研究成果の発表をする機会にも恵まれていると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、19世紀女性作家における「規範の逸脱」と「スピリチュアリティ」の二点に焦点をしぼり、研究調査および研究成果の発表に注力をしたいと考えている。具体的には、19世紀後半に活躍した作家ヘレン・ハント・ジャクソンの『ラモーナ』およびレベッカ・ハーディング・デイヴィス『ウァリック医師の娘たち』、エリザベス・フェルプス『半ば開いた門』らの作品を考察する。
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Causes of Carryover |
2023年度の助成金のうち、226,623円が次年度の使用分となった。これは、当初2023年度にPCの購入を検討していたが、円安の影響もあり旅費が占める割合が増えたため2023年度の購入を断念し、残額と合わせて次年度に購入することにしたためである。
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