2023 Fiscal Year Research-status Report
世紀転換期ヨーロッパの装飾芸術の盛衰に関する新聞・雑誌メディアからの分析研究
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23K00443
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Research Institution | Osaka Metropolitan University |
Principal Investigator |
田中 由樹 (白田由樹) 大阪公立大学, 大学院文学研究科, 教授 (00549719)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高井 絹子 大阪公立大学, 大学院文学研究科, 教授 (20648224)
辻 昌子 大阪公立大学, 大学院文学研究科, 都市文化研究センター研究員 (20771918)
野村 優子 愛媛大学, 法文学部, 准教授 (50804134)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 装飾芸術 / メディア言説 / 世紀転換期 / ヨーロッパ |
Outline of Annual Research Achievements |
白田は、ベルギーの装飾芸術を支援した自由美学の『現代芸術』誌と労働党の『民衆』紙の記事を精査し、1897年万博のコンゴ展示をめぐって両者の立場が相反していく過程を跡づけた。また、アール・ヌーヴォー130周年記念としてブリュッセルの各所で開催された企画展を訪問し、コンゴ自由国とアール・ヌーヴォーの関係性に関する最近の研究動向を調査した。 辻は、文学と三面記事を巧みに織り交ぜたジャーナリスト作家としてのロランの文体を分析し、その結果、世紀転換期パリにおいて活躍しようとする新しい芸術家たちへのロランの影響力の大きさを確認した。とりわけアンソールやトゥーロップなどベルギーを活動の中心とする芸術家たちが、新聞記事のもたらす大きな恩恵を歓迎すると同時に恐れてもいたという、フランス国外の芸術家たちとパリのメディアの関係性を明らかにした。 高井は、ウィーン分離派の擁護者ベルタ・ツッカーカンドルの、新聞や雑誌における言説を追った。彼女は、もともとウィーン工芸を活性化するために輸入されたイギリス様式を指す「最新の」という意味合いの言葉「モデルネ」を、数年後には自分の記事の中でウィーン工房の製品に使用しはじめる。高額な製品を注文する経済市民層とはまた別の、教養市民層に属する人物によるウィーン分離派支援のあり方を確認することができた。 野村は、美術商ビングと美術批評家マイアー=グレーフェの言説を追うことで、ドイツにおける装飾美術への関心の高まりが1895年頃にあることを確認し、その背景にある要因として、リーバーマンらによるモダニズム運動のほかに、19世紀後半に各都市で設立された美術工芸博物館と美術工芸学校の活動と、ヴィルヘルム2世即位による拡張政策への路線変更が関わるのではないかと予測して考察を進めた。 また、各研究課題の進捗を報告し、今後の活動や成果公表について話し合うため、定例研究会を3回、開催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者・研究分担者ともに、ほぼ研究計画どおりの研究調査や分析・考察を行い、その経過報告や成果を研究発表、論文・研究ノートの形で公表するとともに、翌年度の論文執筆や調査に向けた準備もできているため。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、研究代表者・研究分担者ともに設定した研究計画に沿って調査活動や考察を進める(現在のところ、計画に大きな変更はない)。またその進捗報告と、今後の方針をすり合わせるための研究会を定期的に開催するとともに、各々の対象地域や装飾芸術のテーマに関連する研究者をゲストスピーカーとして招き、成果公表としての共著書企画の内容について、より具体化させながら、協力体制を構築していく。
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Causes of Carryover |
物品費(書籍などの文献資料)については、助成金の交付前に必要となる文献をある程度すでに購入しており、新たに刊行されたものがあまりなかったため、予定よりも少ない執行額となった。 その一方で、国外旅費にかかる航空券代や燃料サーチャージ、渡航先での宿泊費が円安や世界情勢の影響により高騰しているため、物品費の未使用分を次年度に予定している海外調査の旅費に充てることで、旅費予算の不足分を補う予定である。
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