2023 Fiscal Year Research-status Report
Research on Video Works Mediated Cultural Translation - Aimed at Developing Intercultural Competence
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23K00614
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
保坂 敏子 日本大学, 大学院総合社会情報研究科, 教授 (00409137)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
島田 めぐみ 日本大学, 大学院総合社会情報研究科, 教授 (50302906)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 文化翻訳 / 映像作品 / 異文化間能力 / 異文化間コミュニケーション能力 / 質的分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では「映像作品を介した文化翻訳は言語学習者の異文化間能力(IC)や異文化間コミュニケーション能力(ICC)の涵養に寄与できるか」を探るために、日本語教育と英語教育において映像作品を介した文化翻訳の事例を調査し、質的分析を行う。その目的は、学習者の文化翻訳の様相、ICとの関わり、他者との対話が文化翻訳に及ぼす影響を明らかにすることで、その成果を基に、文化翻訳を軸とする授業デザインの枠組みの提案を目指している。4年間のプロジェクトの初年次である令和5(2023)年度の目標は、映像作品を介した文化翻訳の事例を調査すること、質的分析を試行して検証方法を検討することであった。目標達成に向けて、以下の研究活動を行った。 (1)日本国内外の日本語学習者の文化翻訳の調査(質問紙調査とフォローアップのインタビュー調査):①台湾で日本語を学ぶ大学生6名と日本の大学で学ぶ留学生2名に対する映画『東京物語』を用いた調査、②日本の日本語学校で留学生10名に対するTVドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』を用いた調査、③日本で働くイタリア人3名と日本の大学で学ぶ留学生2名に対する映画『マイ・スモールランド』を用いた調査をそれぞれ実施した。 (2)質的分析のパイロット・スタディ:(1)の台湾の大学生1名のインタビュー・データについてKJ法の発展形である「うえの式質的分析法」を用いて分析を行った。その結果、文化翻訳には、協力者自身の経験や自国で重視されている価値観などが関わっているという構造が浮かび上がり、使用した分析方法は本研究の目的に適したものであることが確認できた。この分析結果については学会で口頭発表した。また、残り5名の台湾の大学生のデータ分析を進めた。次年度論文にまとめる予定である。 (3)英語学習者の文化翻訳に関する論文の投稿:本プロジェクト開始前に行った調査について論文にまとめ、紀要に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究プロジェクトの1年目である令和5(2023)年度は、国内外の日本語学習者、および、日本国内の英語学習者に対して、映像作品を介した文化翻訳の調査を実施する予定であった。日本語学習者については、「研究実績の概要」の(1)から(3)のとおり、台湾の大学生6名、ならびに日本国内の留学生14名と就業者3名に対して調査を行うことができた。英語学習者については、2023年度中に調査が実施できなかったが、2024年度に実施することが既に決定しており、全体の研究計画から見て、調査時期のずれは問題ではない。英語学習者については、本科研の基盤として開始前に行った調査を論文にまとめて公開することができた。 今年度行った調査は、事前の計画の通り、まず、映像作品を見て答える質問紙調査を行い、その後、協力者を募りフォローアップのインタビュー調査を行うという手順で実施した。調査材料となった3種類の映像作品は、調査対象者の特性を踏まえたうえで、調査実施者が発案して決定した。インタビュー・データの質的分析方法については、事前に想定していたうえの式質的分析法が本研究課題に妥当であることが、台湾の大学生1名に対するパイロット・スタディで確認できた。これを受け、他のインタビュー・データもこの手法で分析を進めており、ほぼ予定通りに進行している。 学会参加に関しては、想定していた情報収集のみならず、今年度行ったパイロット・スタディの口頭発表も実施することができた。この点で、本プロジェクトは予定より早く進んでいる。 以上のような状況から本プロジェクトは「おおむね順調に進展している」と言うことができる。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目の令和6(2024)年度は、以下の3つに取り組む予定である。 (1)1年目に実施した映像作品を介した文化翻訳に関するインタビュー調査データについて、うえの式質的分析法を用いてプロジェクトメンバーが協働で分析を行う。その結果をまとめて、1年目の研究成果として、学会発表や論文投稿を行う。 (2)実施を予定している英語教育での高校生を対象にした調査のほか、国内外の日本語学習者に対する調査を継続する。 (3)今年度は、文化翻訳の様相をうえの式質的分析法で明らかにするだけでなく、映像作品を介した文化翻訳と異文化間能力(IC)との関わりを検討するために、収集したインタビュー・データをByram(1997)のICの5要素の枠組みに照らした分析を行う。 これらの研究結果をまとめて、本プロジェクトの研究成果として学会発表や論文投稿を目指す。 3年目の令和7(2025)年度は、他者との対話が映像作品を介した文化翻訳に及ぼす影響を探るために、映像作品を介して各自が構築した文化翻訳「私の社会・文化論」について他者と対話するという形式で、日本語教育と英語教育にの両言語において実施する。収集したデータについては、これまで用いたうえの式質的分析法とByramのICの枠組みを用てそれぞれ分析する。4年目の令和8(2026)年度には、両言語の分析結果を比較・検討し、ICやICCを育成するための授業デザインの枠組みやデザインの原則を検討する。2年目~3年目にかけての研究成果についても、逐次、学会発表や論文投稿へと繋げていく予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、以下のとおりである。(1)調査の前提となる映像作品の視聴は、DVDを貸し出して個別に行うことを想定して調査参加者の人数分のDVDの購入予算を計上していたが、ほとんどが教室などで集団で視聴する形をとったため、今回人数分の購入が必要なかった。(2)台湾在住者が研究協力者に加わったことにより、対面で行う想定であったインタビュー調査やデータ分析のための検討会を全てオンライン形式で実施したため、旅費を支出しなかった。(3)口頭発表を行った国際学会が研究代表と研究分担者の本務校(東京)が会場であったため、旅費を支出しなかった。(4)調査に対する謝礼を辞退する調査参加者がいた。(5)インタビュー・データの文字化を発注する予定であったが、台湾の大学生6名については、インタビュー・データに中国語が混じっていたため、中国語に通じている研究協力者が文字起こしを行った。以上のように、全て想定外の事態が発生して、次年度使用額が発生した。 繰り越した予算は、次年度も調査を継続するため、調査用DVDの購入に充てる。また、DVD再生方法のない参加者のために、外付けドライブなど機材購入する。分析に着手していないデータは日本語のみの使用であるため、文字化資料の作成を業者に発注する。さらに、1年目の研究成果の発表と今後の調査協力者の開拓のために、国内外の学会参加する費用として使用する。
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Remarks |
2023年10月7日 「レジリエンスとしてのオンライン教育―「学びを止めない」から「学びの拡張」へ―」日本大学大学院総合社会情報研究科 令和5年度第2回公開講座
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Research Products
(7 results)