2023 Fiscal Year Research-status Report
日米大学隣接環境での複数言語使用の実態分析:語学教育への応用を目指して
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23K00704
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Research Institution | Showa Women's University |
Principal Investigator |
竹田 らら 昭和女子大学, 全学共通教育センター, 准教授 (80740109)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 綾 東洋大学, 健康スポーツ科学部, 准教授 (10376999)
大場 美和子 昭和女子大学, 文学研究科, 准教授 (50454872)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | トランスランゲージング / 複数言語 / 多言語・多文化化 / 複言語・複文化化 / 語学教育 / 大学間交流 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、文献調査と予備調査を行なった。このうち、文献調査では、複数言語使用者を対象とした先行研究をトランスランゲージング(以下、TL)の観点から見直すべく、日本で刊行された外国語教育の学術雑誌である『日本語教育』(1703本)、JALT Journal(403本)、『社会言語科学』(429本)の創刊号から2023年10月現在での最新号の会話データ分析論文を対象に実施した。調査の結果、TLに言及した研究は少ないが、接触場面での相互行為やコードスイッチングなど、複数言語使用の記述は3誌に共通して見られた。以上の成果を第48回社会言語科学会研究大会(2024年3月実施。於:福岡女子大学)にて発表した。 予備調査では、日本国内にある米国大学(以下、TUJ)の「Seminar in Japanese and Japan」でビジターセッションを2回収録した。このセッションは、英語を母語とするTUJ学生に加えて日本人学生も参加し、TUJ学生が各自研究している論文のテーマに関する意見交換を通じて、論文を作成していくものである。今回は、英語圏への留学経験を持たない日本人学生とTUJ学生によるセッションを対象とし、参与者のふるまいや話題の展開、TLがどのように発生するかといった相互行為の様相を観察した。その結果、当該セッションは「発表、質疑応答、関連する雑談」をまとまりとする談話から構成されていることがわかり、特に、質疑応答において、母語の使用や丁寧体から普通体へのスタイルシフトなど、TUJ学生によるTLが起きていることについて興味深い変化が観察された。なお、予備調査では、複数グループの収録で音声が重なることも判明し、次年度の本調査に向け、ビデオやICレコーダーでの収録の方法についても検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の計画内容に沿って、ほぼ順調に進められている。特に、文献調査では、TLを切り口として先行研究の知見を見直し、外国語・第二言語学習者のふるまいをTLとして捉える視点はまだ十分には浸透していないことを示した。この点は、予備調査や本調査への準備に着手する上で、大きな指針になっている。 一方で、参与者が、ビジターセッション中のコミュニケーション上の問題にスマートフォンや翻訳アプリなどのコミュニケーションツールを駆使して対処する様子を記述・論述した研究については、外国語教育の分野で複言語使用を扱った会話データ分析論文の中では探し出すことができておらず、本研究における文献調査が及んでいない一要因となっている。この点については、調査を行う論文の分野を広げるなどの方法を採用し、2年目以降の課題に含めたい。 併せて、予備調査では、各ビジターセッションで3回ずつ、異なる参与者同士のディスカッションを収録し、営まれる相互行為の様相を観察するとともに、展開される談話の構造、そこに見られる言語表現におけるTLやスタイルシフトを抽出している。また、予備調査を通して、収録機材・環境の設定やフォローアップ・インタビューの実施方法など、調整すべき事項を洗い出すことができ、本調査に向けて準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
文献調査と予備調査で得た知見や反省点をもとに分析・考察の論点を整理して、本調査を行なう。その際、TLを通じ、参与者間で理解が共有されていく過程や相互行為における参与者間の力関係などに焦点を当て、言語・非言語での調整の過程を明らかにする。まずは、予備調査で観察できた日本語基調の談話における母語(英語)や丁寧体基調の談話における普通体へのスタイルシフトに着目し、参与者の言語レパートリーとして考察する。そして、参与者が言語レパートリーを駆使して学びの場に参加していることを明らかにする。この成果は、第27回ヨーロッパ日本語教育シンポジウム(於:ハンガリー カーロリ・ガーシュパール・カルビン派大学)がTLをテーマとしていることから、そちらにて発表する予定である。 さらに、異なる教育現場でのTL使用の可能性を検討しながら、一連の調査で得られたTLの実態をリスト化し、TLが出現した際の参与者同士の関わり方を視野に、教育プログラム開発の観点から考察する。その後、開発した教育プログラムを研究従事者各自の所属大学で実践し、本調査と同様の調査・分析を行なってプログラムの効果を検証する。この実践をふまえ、学生のTLによる相互交流の実態と外国語・第二言語の習得について、国内外の学会で実践研究発表を行う。その際に聴衆からいただくコメント、また、実際に交流活動を行う他大学からの意見もふまえ、TLのリストやプログラムを修正していく。
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Causes of Carryover |
次年度使用が生じた理由として、機材、文献調査、予備調査の内容が挙げられる。このうち、機材については、当初計上していたマイクロフォンなど、収録に必要なものの一部が、研究代表者や研究分担者の手持ちで賄えたことによる。また、パーティションについては、想定されていたほど参与者同士が密になることなく収録を実施できたことによる。文献調査では、対象論文の複写代を計上していたが、一部の学会誌で電子ファイルによる公開が可能となり、複写費用の負担がなくなった。予備調査については、ビジターセッションでの相互行為分析を通して、参与者に確認したい項目が多岐にわたり焦点を絞りきれなかったため、TUJ学生が本国へ帰国する前にフォローアップ・インタビューを実施できず、その分の謝金支払いが生じなかった。 以上の点をふまえ、本調査を中心とする次年度は、各参与者の発言内容を鮮明に拾うべく、前年度よりもマイクロフォンの数を増やし、研究代表者・分担者の手持ちにて賄えない分を科研費から支出したい。さらに、予備調査から見えてきた論点を理論の面から強固なものにすべく、文献購入に費用の一部を充てる。その上で、データに出現する言語現象や相互行為に関して、参与者へフォローアップ・インタビューを実施し、その謝金にも充てる計画である。さらに、次年度は研究成果を海外で発表することが確定しているため、その出張費も使途の一部に含めることとする。
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