2023 Fiscal Year Research-status Report
第二言語教育枠内でのナラティブ・メディスンのための英語文献精読活動のスキーム開発
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23K00723
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
片岡 由美子 愛知県立大学, 看護学部, 准教授 (50315909)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ナラティブ・メディスン / 英米文学作品 / 精読 / 医療系学部 |
Outline of Annual Research Achievements |
Evidence based medicine (科学的根拠による医療)は統計や量的研究に代表される科学的データに基づく医療系研究の根幹を成してきたが、「人」や「こころ」を対象とする治療あるいは健康科学の実践において、データや数字上では捉えきれない事象に対応する術についての検討も必要とされてきた。そのような医療者教育にかかわる人文系研究者の一員としてHunter (1991)は「医学は科学ではなく、解釈的アプローチである」と述べた上で「医学は基本的にナラティヴの形を取る」と定義づけた。この言説はその後のナラティブ・メディスンの誕生へと結びついている。 本研究に関し、すでにナラティブ・メディスンのための英語文献精読活動のスキーム開発のために、医療系分野の教育に文学が導入された目的に焦点を当て拙論、「ナラティヴを介した文学と医学の共鳴と協働 ― ナラティヴ・ターンを軸にした解釈による ―」.『愛知県立大学看護学部紀要 28』において発表していたが、今年度の実績としてはそれを受けて、2023年度の計画であったそもそも「ナラティブ・メディスンのテクストは何を対象としているのか」という問いを掲げ、他分野のナラティヴと医療系のそれとの違いを明らかにするため、関連文献を分析し、その成果を「ナラティブ・メディスンのテクストとは何か―医療領域における『物語』の特徴―」, 『愛知県立大学看護学部紀要 29』, 1-9, 2023. において明らかにした。 加えて、医療系分野でどのような文学作品が扱われる傾向にあるかについて関連文献を精査し、且つ、医療系研究者の文学作品を基にした研究について分析し、拙論、「医療系分野で文学作品を扱う二つのアプローチについて―ナラティブ・メディスンとの関係性を念頭に―, 片平59号」, 51-65,2024.において発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本の医療系学生にナラティブ・メディスンの精読活動を提供するためのスキーム開発のため、まず、ナラティブ・メディスンに関わる歴史的背景を提示した。先行研究を基軸とした文献検討を行い、歴史的背景について明らかにし、成果発表を行う事ができた。 次に、医療系分野におけるナラティヴにかかわるテクストそのものに関し、他分野との違いに注目し、特徴をとらえ、この問題についても成果発表を行う事ができた。 加えて、医療系分野における文学作品の取り扱いに関して、その扱い方にどのような傾向と特徴がみられるかについての研究をまとめ、こちらも成果発表を行う事ができた。 よって、初年度に予定した研究計画に関して、いずれの課題についてもほぼ予定通り、研究の過程を経る事ができたとの判断が可能であり、当該研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度において、ナラティブ・メディスンの文学作品を取り入れてきた学術的背景と、医療分野に関わるナラティヴのテクストの特徴について明らかにし、医療系分野の教育において文学作品を扱う傾向とその特徴を指摘することができた。これを受け、2024年度は、これらナラティブ・メディスンにかかわる文学作品導入における精読スキームを提示する。そのスキームの対象とするのは日本の高等教育(大学のみならず、医療系専門学校レベルを含む)の第二言語教育、中でも教養教育の範疇において教授可能な精読スキームを想定している。 そのために、具体的な文学作品をいくつか精読の対象とし(最終的に5点ほどに絞る)、それぞれの作品に関する精読の教案を策定する。作品選定の基準、方法については、今年度に研究を行い成果発表をした拙論、「医療系分野で文学作品を扱う二つのアプローチについて―ナラティブ・メディスンとの関係性を念頭に―」を基盤に、作品のテーマや成立時代、作者の属性などについて検討を行い、ジュネットの物語論を中心に、ブースの論じた物語論を加味し、理論に基づく視点を解釈を基本としつつ、ナラティブ・メディスンが主軸とする時間や倫理を分析できるような教案を目指す。物語が内包する形而上学的特徴、さらには文化のコードを含む文学的要素を取り上げ、この研究テーマを教養教育の範疇で扱う意義を明確にする。
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Causes of Carryover |
本研究申請時点では、2023年度においてナラティブ・メディスンに関係するワークショップに参加するため学外研究(海外)を予定していたが、渡航費の高騰により、物品購入を見送り対応を検討を試みた。しかしながらそれでも予算内で実施することが叶わないことが判明したため、研究進捗状況を鑑み、ワークショップ参加は成果発表に合わせて実施することとした。2024年度も研究遂行のためのエフォートを捻出するために、今年度年同様の時間数におけるバイアウト申請を必要との判断に至った。そこで教養教育センター運営会議において2024年度の担当授業におけるバイアウト申請を行い、所属学部教務委員会、及び教授会、大学教育研究審議会において研究者の総担当授業時間数を基に審議がなされ、2コマ×15回分の授業における非常勤雇用のためのバイアウトが承認された。 また、2023年度に見送った物品購入と、2023年度の本助成では充当をしなかった学会参加のための国内旅費の支出が予定されるため、翌年度分使用額として上記の金額を計上することとなった。
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