2023 Fiscal Year Research-status Report
Research and development of a method for developing academic English writing skills by using translation support tools
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23K00765
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
岡田 毅 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 特任教授 (30185441)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坂本 泰伸 東北学院大学, 情報学部, 教授 (60350328)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | AIツール / 外国語としての英語(EFL) / 機械翻訳システム / 英語力習熟度別指導 / 定量分析 / 実証実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究開始年度の令和5年度には、その前年に一般に公開され大きな関心を惹きつけた所謂生成系AIを用いたwebサービスシステム等の過熱気味の拡散が一定の冷却期を迎えるのを見極める必要があった。産業界・政界・医療界・教育界を問わず、世界規模でその可能性と危険性が盛んに議論され続けているが、いくつかの理由から、これらのAIツールを大学における英語教育に安易に導入するのには相当のリスクが伴う事を理解しなければならない。DeepLに代表されるような多言語間翻訳システムであっても、言語教育用に設計されたものではない。またChatGPTのように大規模言語モデルに基づいて、あたかも「知能」を有しているかのような受け答えを実現するシステムを、言語教育や学習評価にそのまま利用するという考え方には慎重さが求められる。学習者側からすればリアルタイムで個別学習状況に即応したフィードバックが得られるというのは極めて大きな利点であるが、そのフィードバックや評価の適切さはもとより、それらをいつの段階で受け取り、次の学習フェーズにどのように活かしていくかについての指針を得るには、人間教員からの指摘や適切な示唆が必要である。 本研究では進化し続けるAIツールの学習者にとって最適な応用法を実践授業や実証実験によって探究しようとするものであり、そのためにはAIツールの性能の評価および学習者の習熟度に応じた利活用法を事前に入念に調査研究する必要がある。また、各種のAIツールを用いた授業を提供する教員側の知識や運用に関する実践的な能力も考慮の対象として不可欠である。 このために、初年度の基礎的研究と実証実験計画の策定を経て、①各種の生成系AIツールの性能と、組合せから得られる相乗効果の検証、②個別学習者にとっての最適な学習環境モデルの構築、③授業を実践する教員のシステム全体の運用能力、等について入念な研究を推進してる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題申請時点では、一般に広く公開されていなかったChatGPTに対する世間の関心が2023年末から過熱気味となり、世界規模で漠然とした大きな期待とそれに対立する危惧が表明された。この潮流の中で、本来の研究目的である我が国の大学における学術英語教育の質的向上に向けた実証的な研究を推進するために、本年度は各国・地域の研究者たちが発信する情報を幅広く収集し分析することと並行し、外国語としての英語教育(English as a Foreign Language: EFL)に携わる研究者や教育者に対して国際学会等も通じ積極的に本研究のアイディアを発信することにより有益なフィードバックを得ることに注力した。 これと並行し、ChatGPT等の生成系AIツールを支える大規模言語モデル(LLM)の特徴と将来の発展の可能性を特にEFL教育の視点から整理し、当該システムの長所と教育上留意しなければならない短所等を把握することを目指した。各種AIツールを柔軟に組み合わせて単一のe-ラーニング画面に配置した立命館大学開発のTRANSABLEの利用方法に関する検討を研究分担者と活発に行った。その結果、多くの場合、生成系AIがもたらすEFL教育・学習上の利益は先例を見ないものであることが明確に認識されると同時に、それらのAIツールをEFL教育実践の場で活用する際の人間教師の役割の一般化や、学習成果の進捗を客観的に評価する基準等の未整備も明らかになった。 国際ジャーナルへの投稿や国際学会でのプレゼンテーションに加えて、研究代表者が理事長を務めるEGAP Japan Consortium(EJC)の各種会合や招聘を受けた研究機関での講演等を通じて、本研究への理解と幅広い協力関係を構築する努力も行った。その結果、令和6年度からの本格的な実証実験に向けての一定の方向性が確保されるに至った。
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Strategy for Future Research Activity |
令和6年度以降の研究推進の方略は以下の2点に大別できる。①数多く利用可能な生成系AI技術を活用した英文作成・校正ツールの性能比較を多面的に行う。②習熟度別に峻別可能な実験参加学生のボランティアを募り、各種ツールの有料版提供も視野に入れての実際の利用を伴った英語学習実験を実践する。 多くの生成系AIを利用したツールは必ずしも外国語としての英語学習での活用を想定したものではなく、ビジネス通信の場におけるリアルタイム的な翻訳などの場での利用を前提とする場合が多い。そのため、これらを英語学習の場に応用する際には、学習者側から見た益を最大限に考慮しなければならない。例えば英文生成や校正の結果だけを入手するような姿勢では、学習者自身の英語運用能力の伸長は期待できず、むしろ生成や校正のプロセスを客観的に観察することによって英語運用能力の弱点を自己発見的に認識させるための工夫を考案し、次の段階に繋げるという作業が必要である。ここに人間教員の介在が強く求められるところであり、この点を実証実験を通して追究する。 漠然とした英語力向上を標榜するのではなく、世界標準の客観的英語運用能力指標としてのTOEFLテストを利用し、プレテストによる習熟度別のプレースメントとポストテストでの学力の伸長を客観的に測定する。このために、TOEFLテストの特にライティングセクションを活用するための許諾を同テストの日本国内ハンドラーであるETS Japan社から得る予定である。この際に、実際のテスト問題に対して学習者がツールを用いた場合と用いない場合の回答の質的分析はもとより、どのツールをいつの段階でどのように(個人ベースかペア学習かグループ学習かという学習モードの違い)習熟度に応じて用いれば最大限の学習効果が得られるかという本研究課題の核心的な実験を行う。実験結果は専用サーバーに格納され数値的解析の対象となる。
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Causes of Carryover |
生成系AIに基礎を持つ翻訳・校正ツールの公開が相次ぎ、それらの中からEFL学習にとって最適な製品を、性能・操作性・価格の観点から精査し、研究目的に合致するものを選択するための準備に十分な期間を必要とすると判断したため。特にDeepLのAPI提供が廃止されたために、立命館大学で開発・運用されているシステムTRANSABLEのようなツールの性能が大幅に低減され、本研究のパイロット的実践授業への導入を見送らざるを得ず、代替システムの導入ないし運用法の見直し計画が2年次以降に必要となった。 学習者の英語運用能の進捗を定量的に観察・分析するのに必要なデータ処理用のワークステーションに関して、現有設備の性能劣化が予想よりも緩やかであったため、研究初年度での機器更新の必要性を認めず、2年次以降の導入を検討する計画である。データ格納用のNAS装置に関しては、内蔵ハードディスクドライブの入れ替えと調整によって、十分な用量の確保が担保できることが確認できた。国内外での研究発表会数を初年度は減らし、2年次以降にその回数を増加させる計画を研究分担者と策定した。 質的分析に必要な高価なソフトウェア(例: NVivo)の最新版への更新の積極的な必要性が認められず、現有ソフトウェアでの研究続行が可能と判断されたため。分析の進捗に応じて必要な場合には最新版の導入を検討する。
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Research Products
(4 results)