2023 Fiscal Year Research-status Report
The Russian expansion policy on the Nottheast Asia: Japan-Russia relations over the straits
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23K00788
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
井澗 裕 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 研究員 (10419210)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 南下政策 / 宗谷海峡 / 津軽海峡 / 対馬海峡 |
Outline of Annual Research Achievements |
国内の文献資料を収集・検討した結果、管見の限りながら、日露戦争における防衛的な動機とされるロシアの南下政策については実証的な裏付けがなかった。一般的には、南下政策とは不凍港を獲得するために領域拡大を企図するロシアの軍事的基本方針を指す。しかし、これは日本側の一方的な推測に過ぎない可能性がある。 具体的には、①「南下政策」という語に該当するような軍事的計画・方針・指示などを含むロシア側の一次史料というべき公的文書は現状では確認できないこと、②日本国内で出版された日露関係史の諸文献においても、具体的な文献を参照・引用したものは確認できないこと。すなわち、幕末以降現代に至るまで、ロシア共闘における領土拡張政策について、具体的な根拠を欠いた状態で「脅威論」を展開していた可能性が高いと推察される。こうした「南下政策論」が大々的に展開されているのは、おそらく日本国内のみであり、他国の文献、特にロシアではあまりみられない傾向がある。 他方、日本で「南下政策」「南下論」についてやや詳しく論じた文献は、クリミア半島やオデッサなど黒海にある不凍港について論じたものであり、この地域における政策方針を換骨奪胎する形で、極東における戦略を推論しているにすぎない。しかしながら、こうした推論が繰り返されるうちに、「ロシアは不凍港を求めて南進を志向している」という論説が、日本国内では半ば事実のように論じられる状態になっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和5年度については、配偶者が新型コロナウイルスが重症化し、あわせて潜在的な持病であった多発性硬化症を発症したこともあり、その介護を最優先とし、長期出張を伴う研究活動の延期を決断した。そのため、研究予算の執行をあえて見送り、これまで「南下政策」がどのような文脈で語られてきたのかを文献調査に精査・検討するにとどめた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、この「南下政策」源泉の淵源について、調査検討を進めつつ、配偶者の病気回復を待ちたいと考えている。また、ロシアとウクライナの武力紛争に終熄の気配がないため、過去の軍事機密に抵触する本研究において、ロシア国内で文献資料の収集をするのは危険性が大きいと判断し、少なくとも本年度において海外調査は実施しない方針である。 一方で、国内における現地調査については、函館と長崎において要塞遺構調査を実施するとともに、現地における郷土資料の収集整理にあたる予定である。また、余力があれば、国立国会図書館と防衛省防衛研究所において、日本の軍部がロシアの戦略をどのように把握していたのかを検証する予定である。
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Causes of Carryover |
令和5年度は配偶者が新型コロナウイルスの後遺症と多発性硬化症により要介護状態となったため、その介護を優先し、研究費支出をともなう研究活動を延期することを決断した。 令和6年度はウクライナとロシアの武力紛争が継続し、日露関係が緊張している状況であることに鑑み、軍事関係の情報収集は自粛すべきと判断されるため、原則としてウラジオストクやサハリンなどロシアにおける現地調査は原則として実施しない方針である。そのため、函館における現地調査(7日間程度)、長崎における現地調査(7日間程度)を優先的に実施するとともに、東京における文献資料調査(国立国会図書館・国立公文書館・防衛省防衛研究所)をおこなって、いわゆる「南下政策」言説に実体が伴っていないという仮説を検証することに重点をおきたい。可能であれば、対馬における現地調査(七日間程度)を並行して、これまで学術的研究に乏しい対馬要塞の歴史的意義を「海峡防衛」という観点から論じる機会を構築したいと考えている。
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