2023 Fiscal Year Research-status Report
20世紀前半のアジア太平洋地域における国際赤十字運動と人道主義理念の変容
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23K00798
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
牧田 義也 一橋大学, 大学院社会学研究科, 講師 (90727778)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | グローバル・ヒストリー / アメリカ史 / 国際赤十字運動 / 人道主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は20世紀前半のアジア太平洋地域における人道主義理念の変容過程を、日本・アメリカ合衆国(以下、米国と略記)・オーストラリアを中心に推進された国際赤十字運動に焦点を当てて考察することを目的とする。アジア太平洋地域における日・米・豪の赤十字社による国際的連携に注目することで、本研究は、ヨーロッパ諸国の戦時事業を中心に叙述されてきた従来の赤十字運動史を刷新し、ヨーロッパ起源の人道主義理念が、アジア太平洋地域の戦争・帝国支配・植民地統治と連動しながら、複合的に再定義されていく様相を包括的に分析している。この研究目的に沿って、令和5年度は、フランス・グルノーブルのグルノーブル大学で開催された研究会議"Mental Health, sexuality and gynaecological treatments"(2023年6月12日開催)およびスイス・ジュネーブの赤十字社連盟本部で開催された研究会議"The League of Red Cross Societies: Historical Perspectives, 1919-1991"(2023年6月14-16日開催)において、研究成果の一部を発表した。これらの国際会議の場では、本研究課題がもつ潜在的な可能性と、それに付随する解決すべき方法論上の課題について、多角的な観点からさまざまなフィードバックを得ることができた。また、関連史料の分析を進めながら、当該分野の研究動向に関する包括的な調査を行うとともに、研究論文およびその他の論考の執筆を進めてきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和5年度は、関連分野の研究動向を包括的に調査し、本研究課題の位置付けを明確にするとともに、その一部を国際会議の場で発表して多様なフィードバックを得ることができた。これらの研究活動を通じて、本研究は当初の予定通り、1920年代までに国際赤十字運動を支える人口動態上の基盤が、ヨーロッパからアジア太平洋地域へと地理的に移行したことを明らかにするとともに、日米豪3か国の赤十字社が、域内各地で保健衛生分野をはじめとする平時の人道支援に着手したことから、国際赤十字運動の事業範囲は、主権国家間の戦時援護活動という旧来の枠組を超えて、植民地・委任統治領を巻き込んだ多角的な人道支援活動へと拡大されていった過程を論証してきた。また、収集済みの史料分析を進めることによって、次年度以降に調査・研究を進展させるうえで必須となる知識や方法論の基盤を構築することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度の研究活動を通じて得られた知見を基盤として、基本的には同様の研究方法を維持しつつ、さらなる分析を進める。とくに令和6年度は、20世紀の国際赤十字運動を特徴づけた災害救護と食糧支援に関わる諸問題に焦点を絞って、各国赤十字社の救護・援助事業を統合・合理化する国際人道支援枠組の構築過程について考察する。本研究では、赤十字社連盟常任理事会における日米豪の議論に焦点をあて、国際人道支援枠組の構築が中国の主権問題に抵触する政治性を帯びたことを指摘するとともに、他の植民地・委任統治領にも適用可能な「人道的介入」の範例となったことを論証していく。
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Causes of Carryover |
令和5年度は、研究課題の学術的意義を確認・確立するために、研究動向の包括的な調査を行った。また、研究の方法論的基盤を強化するために、研究成果の一部を国際会議で発表し、研究の方向性についてさまざまなフィードバックを得た。令和5年度はこれらの活動を優先的に実施した結果、海外での大規模史料調査を次年度以降に繰り越すことになり、そのぶん次年度使用額が生じることになった。次年度以降は、令和5年度の研究成果に基づいて、海外での史料調査を継続的に実施し、所期の研究目的を達成できるよう努めていく。
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Research Products
(2 results)