2023 Fiscal Year Research-status Report
全体主義の箱庭:イタリア・ファシズムにおける「新しい空間」と「新しい人間」の創出
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23K00802
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
小山 吉亮 神奈川大学, 法学部, 准教授 (70646356)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
新谷 崇 茨城大学, 教育学部, 助教 (30755517)
山手 昌樹 共愛学園前橋国際大学, 国際社会学部, 講師 (70634335)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 帝国 / 植民地 / エチオピア / 人種 / 移民 / 感染症 / 独裁 / 開発 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、イタリアの全体主義が独ソと異なる「イタリアの道」をたどることになった理由を<「新しい空間」における「新しい人間」の創出>の視角から解明しようとするものである。初年度である2023年度は、①「現存した全体主義」の比較史の可能性、②「新しい人間」・「新しい空間」の概念の2つの領域を中心に研究を進めるとともに、③国内マラリア地帯と植民地に関する文献の収集にも取り組み、その成果を踏まえて研究会を2回開催した。 ①の「現存した全体主義」に関しては、西洋史研究会大会の共通論題「ファシズム・ナチズム・スターリニズム」において、小山が「イタリア・ファシズムと「不完全な全体主義」――「現存した全体主義」の比較史のために」と題する発表を行い、独ソより「不完全」とされてきたイタリアの事例から全体主義の概念を再照射した。この報告では、「現存全体主義」をその長期的な夢・願望と区別して理解するべきであること、全体主義体制論に変化・生成の契機を取り入れて「現存した全体主義」を「未完」・「不完全」なものとして把握する必要があることを示し、20世紀的現象としての全体主義を歴史学の概念として復活させることを提唱した。②の「新しい人間」・「新しい空間」の概念に関しては、山手がイタリア近現代史研究会全国大会において「ファシズム研究における《uomo nuovo》概念の射程」と題する発表を行い、「新しい人間」と「新しい女」に関する先行研究の整理を行うとともに、イデオロギーとしての比較可能性について考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度は理論・研究視角に関する領域を中心に研究を進めることになったため、イタリアでの史料調査を実施せずに先行研究の収集・検討に努めた。その成果を踏まえて研究会を2回開催し、参加者全員が担当分野の先行研究の状況と各自の研究の進捗状況について報告した。既に述べたように、①の「現存した全体主義」の比較史に関しては西洋史研究会大会で小山が、②の「新しい人間」の概念についてはイタリア近現代史研究会全国大会で山手がそれぞれ報告を行ったほか、②と関連するジェンダーの問題についても山手がコラムを執筆した。さらに成果の公刊には至らなかったが、②の分野に関しては公衆衛生学・優生学・農業経済学と「新しい人間」論の関係や「新しい人間」から除外されている集団についても検討を行った。③のマラリア地帯と植民地に関しても文献の収集・検討を進めており、その成果を踏まえて2024年度に史料調査を実施する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
文献収集、理論的検討、および比較史的検討に関しては2023年度中にある程度目処をつけることができたので、2024年度は国内マラリア地帯と植民地に関する史料調査を実施し、収集した史料の分析に力を注ぐ。マラリア地帯に関しては、アグロ・ポンティーノとアグロ・ロマーノを主な対象として国土総合改良事業・国内移民政策に関する史料・文献調査を実施するとともに、イタリアのマラリア学とマラリア政策に関して南部主義との関係も視野に入れて調査を行う。植民地に関しては、東アフリカにおける人種主義や同地における法制度の導入について資料・文献調査を実施する予定である。「現存した全体主義」および「新しい人間」・「新しい空間」の領域に関しては、2023年度に学会で発表した成果の公刊に取り組むとともに、「新しい空間」に関する理論的検討を進める予定である。
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Causes of Carryover |
2023年度は理論・学説史を主題とする学会発表を行うことになったため、イタリアでの史料調査を実施せずに先行研究の収集・検討を中心に研究を進めることになった。その結果、外国旅費を使用しないこととなり、次年度使用額が生じた。2024年度は当初の予定通り、研究代表者・分担者の全員がイタリアで史料調査を実施する予定である。2023年度に調査を行えなかったことを考慮して、調査の対象とする機関・文書群を増やす方向で検討している。
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