2023 Fiscal Year Research-status Report
The "vernacularization of Islam" in Indonesia in the first half of the 20th century
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23K00866
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山口 元樹 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授 (60732922)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 東南アジア史 / インドネシア / イスラーム / 中東アラブ地域 / クルアーン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、クルアーンのインドネシア語への翻訳をはじめとする20世紀前半のインドネシアにおける「イスラームの現地語化」について考察する。特に着目するのが、インドネシアのムスリムと中東アラブ地域のムスリムとの間の定期刊行物における議論である。本研究の目的は、アラビア語とインドネシア語、すなわち宗教の言語と民族の言語という観点から、イスラーム共同体と国民国家の関係をめぐるインドネシアのムスリムの認識を解明することである。 当該年度は研究に必要な資料を集めるために、2023年8月と2024年2月にインドネシアのジャカルタで調査を行った。ジャカルタにある国立図書館および国立公文書館で、20世紀前半に発行されたインドネシア語の定期刊行物(新聞・雑誌)やオランダ植民地政庁の報告書などを調べた。この調査によって、インドネシアと中東アラブ地域(主にエジプトのカイロ)のムスリムの間での交流や定期刊行物における議論に関して多くの情報を入手することが出来た。 上記の資料の分析に基づく研究成果の一部は、2023年8月にインドネシアで開かれた国際シンポジウムと2024年1月に京都で開かれたシンポジウムで発表した。インドネシアでのシンポジウムの報告内容は英文論文として執筆中である。さらに、国際誌Die Welt des Islamsにも英語論文を投稿して受理された。それらの中では、インドネシアのムスリムによる中東アラブ地域の思想の選択的・恣意的な受容や、カイロ留学経験者やアラブ系住民といったインドネシア・ムスリム内の両地域の仲介者の役割について明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度は当初予定していた研究課題をほぼ実施することができた。特に国際誌に英語論文が受理されたことから、早い段階である程度まとまった研究成果を提示することができたと言える。 ただし、当該年度の研究では、中東アラブ地域からの影響をインドネシアのムスリムがいかに現地化したのかという点を明らかにしたものの、研究課題の中心的な内容であるクルアーンのインドネシア語への翻訳については直接言及することができなかった。これは、クルアーンの翻訳をめぐる議論が、インドネシアやカイロに限らずイスラーム圏の広い地域で話題となっており、幅広い文脈の中に位置付けなければならないことが分かったためである。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度はオランダとインドネシア(もしくはエジプト)で資料調査を行う計画である。これまでの調査から1930年代前半にクルアーンをアラビア語以外に翻訳することの是非が様々な地域で大きな議論になっていたことが分かった。そのため、インドネシア語の定期刊行物やオランダ植民地政庁の報告書に加え、まずはカイロなどで発行されたアラビア語の定期刊行物を集める必要がある。 研究成果としては、2023年11月に京都大学の東洋史研究大会で20世紀前半のインドネシア人によるカイロ留学に関する報告をすることが決まっている。また、Die Welt des Islams誌に投稿した論文が出版される他、2023年8月に行った発表内容をもとに論文集に掲載する英語論文を執筆する予定である。
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Causes of Carryover |
航空運賃の値上げにより、当初予定していたノートPCの購入を延期したことに加え、オランダでの資料調査を取りやめ、代わりにインドネシアで資料調査を行ったため次年度使用額が生じた。2024年度は、PCを購入するとともにオランダでの資料調査も行いたい。
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