2023 Fiscal Year Research-status Report
The European Nationalities Congress in the context of the international relations of the 1930s' Europe
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23K00900
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Research Institution | Tokiwa Junior College |
Principal Investigator |
安井 教浩 常磐短期大学, キャリア教養学科, 教授 (10310517)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ヨーロッパ民族会議 / 少数民族 / 1930年代ヨーロッパ / 多民族国家 / 国際連盟 / マイノリティ条約 / 国境問題 / 列国議会同盟 |
Outline of Annual Research Achievements |
1930年代におけるヨーロッパ民族会議の展開を複眼的ないし多層的に考察することを目的とする本課題研究が、出来うる限り早い段階で果たすべき課題としていたのは、ドイツ連邦公文書館が所蔵する Josip Vilfan 文書の調査を行い、必要な史料を入手することであった。そこで4月末~5月初旬にコブレンツの同文書館において15本のマイクロフィルムに収められたVilfan 文書の調査に取り組み、民族会議についての理解の深化につながる数多くの重要な史料を閲覧することができた。同館では、マイクロ史料に関しては利用者本人が閲覧室でスキャンする他に入手方法がないため、滞在スケジュールの関係で4日間しか同館を利用できない条件下で入手できる史料は限られた。そのため翌年3月末に再訪し作業を継続した結果、Vilfan 文書中、重要な史料についてはほぼ閲覧を終え、入手することが叶った。また再訪の際には、コブレンツでの作業継続に先立ち、ベルリンの連邦公文書館においても民族会議関連の史料調査を行ったが、そこでは、これまで民族会議の研究者がS. Bamberger-Stemmann の包括的研究 (2000年) における言及に拠ってきた会議創設に向けた1925年7月8日のワルシャワでの会合 (E. Ammende とポーランドの少数派諸民族の代表たちが参加) の議事録を閲覧し、Bamberger-Stemmann は触れていない具体的な参加者と協議の内容を確認することが出来たが、これは民族会議とポーランドの少数民族との関係を解明するうえで大きな成果であった。こうした二度にわたるドイツでの資料調査の間、ポーランドの国立文書館ビドゴシチ分館が民族会議の重要史料を所蔵していることを知り、9月に現地で調査を行った。以上のように、初年度は基礎史料の調査とその入手に努め、今後の研究の基盤を構築することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題の初年度では、ヨーロッパ民族会議の研究者がいずれも利用している、Josip Vilfan 文書をはじめとするドイツ連邦公文書館所蔵の関連史料にあたり、その入手に努める一方で、民族会議の創設以来、ドイツ人グループ、ポーランド人グループとともに、その運営において重要な役割を果たしたユダヤ人の動向について、上記史料から得られる成果も加味しつつ、分析を進めることを構想していた。民族会議とユダヤ人との関係については、研究代表者はすでにポーランド・ユダヤ人の会議に対する態度に焦点をしぼった論稿を英語で発表しているが、自らの国家も国際連盟における代表をもたないユダヤ人が民族会議に寄せる期待が大きなものであっただけに、ユダヤ人グループ全体と民族会議との関係史を、ナチズムの台頭に伴うドイツ人グループの民族会議に対する態度の変化やヨーロッパ各国のユダヤ人問題の様相の相違も踏まえつつ、まとめる必要を感じていたからである。 しかし、1年の間に3度におよんだ海外での史料調査は、短期間の滞在を無駄なく最大限利用するためにも、その事前準備に膨大な時間と労力を要するものとなり、収集した史料の読み込みと分析にあてる予定であった夏季の休業期間も、急遽ポーランドでの史料調査を優先することにしたがゆえに、初年度においては上記課題については果たすことが出来なかった。本研究課題の進捗状況を「やや遅れている」と判断する所以である。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に予定していた史料の分析作業にやや遅れが生じているとはいえ、本研究の当初の方針に大きな変更はない。2年目となる今年度は、初年度に収集した史料の分析を進め、ユダヤ人グループ全体と民族会議との関係を、会議のステークホルダーとなっていた少数派諸民族の動向、国際連盟をはじめとする国際的な諸機関における少数民族問題検討の様相などにも目配りしながら、まずは1933年大会でユダヤ人グループが会議を脱退するまでの時期について丹念に跡づけ、その成果を世に問えるよう努める覚悟である。その後は、当初の研究計画にしたがって、とりわけ1930年代になって会議へのコミットを強めるウクライナ人・グループ、1938年の最後の大会まで会議に多数の代表を送りつづけ、ユニークな存在であったカタルーニャ人、ハンガリー人の両グループの行動様式も交えた民族会議の諸相を明らかにし、同会議の歴史を1930年代のヨーロッパ国際関係の中で位置づけるべく検討をつづけたい。
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Causes of Carryover |
4月末~5月初旬にコブレンツのドイツ連邦文書館で史料調査を行った際、Vilfan 文書が収められた15本のマイクロフィルムのうち、時間的な条件を考慮し優先順位をつけて取り組んだものの、閲覧しスキャンし終えたのは7本程度であり、重要な史料を見残すことになったため、再訪し作業を継続する必要を強く感じていた。そうした中で、ポーランドの国立文書館ビドゴシチ分館所蔵の民族会議関連史料の存在を知り、研究の進展のためには早期に内容を把握しておくべきと判断し、9月に調査に赴いた。折からの円安と航空チケットの高騰の中で、余裕をみて申請を行っていた研究予算も、3月に予定していたドイツ連邦文書館での再調査を行うには不足することが見込まれ、12月に予算前倒しの申請を行い、幸い承認された。初年度に必要な研究活動を行うにはやむを得ないと判断しての前倒し請求であったが、ドイツでの再調査実施が3月末になったため、その旅費等の清算が研究2年目の予算で行われることとなり、結果的に次年度使用額が生じてしまった。今年度はスペインでの海外調査を予定しており、旅費とそれに伴い収集する史料の代金として助成金の有意義な支出に努めるつもりである。
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