2023 Fiscal Year Research-status Report
古代ギリシア民主政の拡散と受容に関する政治文化史的研究
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23K00903
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
橋場 弦 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (10212135)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 民主政 / ソフィスト / 政治思想 / ギリシア / 民主主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度においては、主として古典期(前5世紀から4世紀)における政治思想と、民主政の成熟・拡散現象との関わりを探究することに集中した。古代ギリシアの政治思想は、前6世紀にイオニア地方で始まったいわゆるイオニア自然学にその濫觴があるが、ポリスの自由人住民全員に平等に参政権を分け与え、国制の主導権を一握りのエリートから広範な住民集団に委譲するという発想の源がどこにあるのか、という根本的な問題について、思想史の面から探ることには重要な意義がある。前5世紀半ばに活躍した歴史家であり「ソフィスト」の一人であったヘロドトスは、前520年代に、アケメネス朝ペルシアですでに民主政が議論されていたと説く(3巻80-82章)が、そこには明らかに後世のアテナイ知識人の発想が投影されており、史実と見なすことはできない。とくに抽選制の利点や、公職者の責任を追及することが民主政の特質であるとの論点は、あきらかにアテナイで役人抽選制が本格的に導入された前487年以降でなくては生まれ得なかったものであり、これを史実であると理解することはできない。続いて現れた民主政擁護の言説は、哲学者ではなく、一般市民が鑑賞する悲劇のテクストに現れる。前472年上演のアイスキュロス「ペルシア人」には、専制君主クセルクセスの母后アトッサの台詞として、ペルシア王は例え戦争に敗北して帰ってきても責任を問われることはなく、引き続き権力を行使する、との言葉がある。これは裏を返せば、公職者の責任を厳しく追及するアテナイ民主政の賛美である。さらに下って前420年代、悲劇「救いを求める女たち」でエウリピデスは、「貧しき者にも平等の権利を与える」のがアテナイ民主政の特質であると説く。これは貧富の差にかかわらず政治的平等を達成したアテナイへのオマージュであると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナ感染症流行が完全には治まらない状況で海外渡航による文献調査などは見合わせたが、内外の文献調査は順調に進んでおり、とくに政治思想と民主政拡散との問題については、古代思想の専門家との交流が有意義であった。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、新型コロナ感染症流行が収束しつつある状況に鑑み、海外での調査研究も視野に入れて、研究に臨みたい。また細かな道具立てを用いた民主政の技法の研究については、各地での考古学的探査の成果を積極的に取り入れる予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症流行が下火になったとはいえ、世界各地でまだ流行が完全に収束しているとは言えなかったため、2023年度については海外出張による資料調査・資料収集ができなかったため次年度使用額が発生した。次年度においては、積極的に海外調査を行い、その支出に費用を充てたい。
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