2023 Fiscal Year Research-status Report
Reinterpreting Narrative of the Expedition to the China Seas and Japan, 1852-1854, by Commodore M. C. Perry
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23K00912
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Research Institution | Kansai University of International Studies |
Principal Investigator |
遠藤 泰生 関西国際大学, 国際コミュニケーション学部, 教授 (50194048)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | マシュー・C・ペリー / 日本遠征記 / 太平洋 / H.メルヴィル / リチャード・H・ダナ / 海事史 / 海民 / グローバルヒストリー |
Outline of Annual Research Achievements |
19世紀半ばに始まった日米関係の扉を開いた英雄として提督ペリーを称揚する通念的な歴史解釈をいったん捨て、同時代の海洋科学の発展に深く絡む人物としてペリーを捉え直すことに本研究プロジェクトの主たる目的がある。その調査の方向を定めることに2023年度の研究活動の要がおかれた。 まず、先行研究の批判的整理のために、最新の19世紀アメリカ史、海事史関係図書の購入とその内容の批判的検討を2023年度は行った。具体的には、19世紀の大洋航海で大きな役割を果たす石炭資源と各国海軍との関係性を探ったオーストリア人史家Martin Dushinberre著Mooring the Global Archiveや、アフリカ近海の奴隷貿易取り締まりで得たペリー自身の経験を分析したH. Bridge編Journal of an African Cruiser など、グローバル世界史にペリーの活動を位置づける研究を参照しながら、研究視野の拡大に努めた。 また、グローバルスタディへの傾斜を強めるアメリカ文学研究において太平洋研究の重要性が増すなか、合衆国内外における海洋文化の表象として米国文学作品を取り上げる学際的な研究の隆盛にも多くを学んだ。なかでもHerman Melville,Richard H. Danaの海洋文学を扱うArmy S. Greenberg や Paul Lyonsらの研究からは、植民地主義的な太平洋への進出ばかりでなく、その活動を懐疑的に見つめる知識人たちの視線を重視する、新しい研究の流れを学ぶことができた。合衆国の拡張という視点から日米関係史あるいは黒船艦隊の歴史を語るのとは真逆の姿勢がそこにはある。 これらの史学史的な理論の検証をするのに必要な一次史料の渉猟をワシントンDCで行う予定であったが、主に究代表者の公務の都合で調査を行うことが出来なかったことが悔やまれる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
実績概要に記した通り、二次文献、研究図書の精読に基づく研究動向の整理には進捗があった。しかし、予定していた一時史料調査が出来なかった。 理由は主に三つある。一つは夏期・春期ともに、授業期間外であっても教員人材育成の企画が続く本務校では、効率よい調査期間を設定することが予想以上に難しかったこと、今一つは、大幅な円安と露宇戦争を含む海外情勢の流動化で航空運賃と合衆国における宿泊滞在費が高騰し、左記の問題への対応がさらに難しくなったことである。そして最後に、コロナ禍の研究代表者の体調低下・帯状疱疹の発症等で、準備していた9月の日程で渡米調査に出ることが出来なかったことを、課題進捗の遅れの原因に挙げておく。 二次文献資料と既刊の一次史料文献の精読で後れをカヴァーすべく努めたが、公文書館一次史料の渉猟に大きなウェイトをおく本プロジェクトの性格故に、課題の進捗がやや遅れることになった。
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Strategy for Future Research Activity |
二次資料の収集と精読分析を引き続き行う。それとともに、2023年度計画しながら始めることができなかった大西洋史観と太平洋史観を架橋する視野の開拓を今年度はとくに積極的に進めたい。そのためにも夏期から秋期にかけてやや長い期間、史料調査のために合衆国に赴くことを計画している。幸い昨年度調査旅行に出ることが出来なかったため積み残された研究資金で、航空運賃と宿泊滞在費の高騰に対処することが出来るようになった。ボストンとワシントンDCにそれぞれ1週間は滞在し、NARAほかの公文書館における研究調査を進める。その資料調査で得るデータ整理のためのPCの購入も本年度行う。 昨年度は、関西アメリカ史研究会の年次大会(2023年11月26日於同志社大学)に設けられた、自身の編著『海のグローバル・サーキュレーション』(関西学院大学出版会、2023年3月)をめぐる合評会で、イギリス帝国史を専門とする大阪大学教授/秋田茂他との知見交換ができた。本年は同じくイギリス帝国史および世界の海の歴史に造詣の深いハーヴァード大学教授/デイヴィッド・アーミティッジらとの知見交換を、ボストン滞在中に計画している。こうしたアメリカ史を必ずしも専門としない研究者、また歴史学研究を必ずしも専門としない他分野の研究者との知見の交換を本年も進める。 日米関係史の研究にアメリカ研究の近年の動向をどのように取り入るか、11月15日~17日にかけて札幌で開催される日本国際政治学会に儲けられる研究方法をめぐるテーマ・パネルに招待されているので、同業他者と討議する準備を進める。
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Causes of Carryover |
研究実施状況に記した通り、昨年度は合衆国への渡航が出来なかったため、予定をしていたボストンのハーヴァード大学およびワシントンDC国立公文書館NARAIでの史料調査が全く行えなかった。そのための調査渡航旅費約60万円と史料調査整理のためのPC購入経費約20万円が使用されずに残った。 本年は、昨年度の渡航調査を行うと当時にワシントンDCNARAIIでの調査を合わせて行うため、その残額を全額渡航調査費として使用する計画である。
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