2023 Fiscal Year Research-status Report
「ふるまいの食」としてのスシ文化:食の協働性と共同性にみる民俗社会の知の継承
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23K01040
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
山本 志乃 神奈川大学, 国際日本学部, 教授 (40881553)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Keywords | オシズシ / 行事食 / 漁村 / 饗応 / 地域性 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該研究の主要な調査対象地である紀伊半島南部地域(和歌山県和歌山市から三重県尾鷲市にかけての南部沿岸地域)に加え、九州北部地域(長崎県佐世保市・平戸市、佐賀県唐津市等)においても現地調査を実施。沿岸部の漁村地域に当該研究の主題であるオシズシが多く伝承されていることを確認し、地域ごとの作り方や具材の特徴、作り手の具体像や饗応の機会などに関する情報を収集した。とくに紀伊半島南部沿岸地域では、地域ごとの特徴が顕著である。2023年度に調査した和歌山市南部の雑賀崎から日高郡印南町にかけての各地では、アセと呼ばれる植物の葉(イネ科ダンチク)を用いて作られるアセずしが分布しており、主としてサバが具材として用いられる。アセずしは祭礼や祝い事などの際に家々で作られるというが、一部商品化もされており、商店や料理屋などでも提供されている。一方、最南端の串本町田並ではカシワの葉(ホウロクイチゴの葉)を使ったオシズシが伝承されており、すし作りに使われるハコ(木枠)も田並独自の形状である。熊野灘沿岸地域でいったんオシズシの伝承が途切れ、三重県の熊野市、尾鷲市の沿岸地域で再びそれぞれの地域独自のオシズシの伝承が確認された。これらの伝承地がいずれも漁村地域であることから、漁船や廻船の往来の歴史が食文化醸成の背景にあることが想定される。紀伊半島南部一帯では、サバ、アジ、マグロ、サンマといった漁村ごとの漁獲物が主たる具材として地域的な特徴にもなっている。一方で、長崎県佐世保市や平戸市などの九州北部地域においては、沿岸地域であるにもかかわらず、必ずしも魚が主要な具材としては認識されていない。これらの差異が明らかになったことは事前には想定されていなかった新たな研究成果であり、今後の調査でも留意すべき課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
紀伊半島沿岸部などの当初から予定していた調査地のほかにも、九州北部地域における情報を収集することができた。当該地域におけるオシズシ伝承の所在を概ね確認することができたが、当初考えていた以上に伝承地に広がりがあることが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度同様に、西日本の沿岸地域の現地調査を継続し、所在確認と資料収集に努める。また前年度の調査地のうち、現在も継続してオシズシが作られている地域を再訪し、より具体的な参与観察等の現地調査を実施する予定である。
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Causes of Carryover |
格安航空券等を利用したことから旅費に余剰が生じた。調査対象地が計画段階より拡大したことから、この余剰を次年度の旅費の一部に充当することとした。
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