2023 Fiscal Year Research-status Report
IT時代における自己負罪拒否特権のあり方――特権による強要禁止の対象の比較法研究
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23K01139
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
朝村 太一 法政大学, 法学部, 准教授 (50823316)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 犯罪捜査法 / 自己負罪拒否特権 / ポリグラフ検査 / 提出命令 / 電磁的記録提供命令 / デバイスの復号化 / アメリカ合衆国憲法修正5条 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度前半には,比較法研究を行う前提として,我が国における問題状況について,憲法38条1項による強要禁止の対象範囲と自己負罪拒否特権の保障根拠に関する文献を包括的・網羅的に検討することによって明らかにした。具体的には,主に,①憲法制定直後に問題となった被告人に対する身体検査の強要および現行法上の提出命令(刑訴法99条3項(当時は2項)),②その後前世紀後半にかけて議論が行われたポリグラフ検査,ならびに,③前世紀末以降の情報通信技術の高度な発展に伴って創設の必要性が高まった,データの提出やデバイス等の復号化を法的に義務づける処分を取り上げて,これらと憲法38条1項との関係に関するこれまでの我が国の議論の状況を通時的に検討することを通じて,本研究課題についての我が国の議論の問題点を析出した。その際,③については,日々の実務を行う中で現実に問題に直面している法曹三者にインタビューを行うことにより,現場の問題意識を共有し,問題点の析出に役立てた。 今年度後半には,比較法研究の第一歩として,憲法38条1項による強要禁止の対象範囲に関する我が国の議論に対して継続的に大きな影響を与え続けているアメリカ法についての検討を開始した。具体的には,まず,同項の母法であるアメリカ合衆国憲法修正5条の自己負罪条項による強要禁止の対象範囲について,サピーナとの関係を中心に,主要な体系書および論文を検討した。このことを通じて,アメリカにおける対象範囲論についての問題状況を通時的に把握することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は,①自己負罪的行為を法的に義務づける捜査処分に対する憲法上の規律の全体構造を規定する法理論,および②①に述べた全体構造を把握する不可欠の前提となる自己負罪拒否特権の保障根拠について検討し,③データの提出命令や暗号化されたデバイス等の復号化命令といった捜査処分に対する憲法上の規律のあり方を検討することにある。この目的との関係で,本年度における研究成果には,次のような意義が存在する。 まず,我が国における問題状況を正確に把握することにより,比較法研究の方向性が明確化された点である。日本国憲法制定直後から現在までの我が国における先行研究を網羅的に分析・検討することを通じて,我が国における憲法38条1項による強要禁止の対象範囲についての議論が,自己負罪拒否特権の保障根拠に関する議論の深化とも連動しつつ,蓄積・発展していく過程が明らかになった。そしてそのことにより,比較法研究の際の分析視角を精緻に設定することができた。このことにより,来年度以降の比較法研究がより実り多いものになることが期待される。 次に,アメリカにおける特権による強要禁止の対象範囲についての議論の全体像を把握することにより,次年度以降のより深い比較法的検討のための足場が固められた点である。特権による強要禁止の対象範囲についての細部にわたる議論について検討する際にも,また特権の保障根拠に関する議論を確認する際にも,対象範囲についての全体構造を把握した上で行わなければ,我が国の問題状況に対して有用な示唆を得ることは期待しがたい。それゆえ,今年度後半において行ったアメリカ法の検討は,今後のアメリカ法,および同じく英米法圏に属するイギリス法の検討を実り多いものとするに当たり,少なくない意義を有するといえる。 以上の理由から,上述の自己評価を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度以降においては,今年度における研究成果を踏まえて,本格的な比較法研究を開始する。 まず,2024年度前半においては,アメリカにおける問題状況の検討を行う。ここでは,2023年度後半において明らかにされた特権による強要禁止の対象範囲についての議論の全体像を前提に,①対象範囲についての議論をより細部にわたって検討して理解を深めるとともに,②同国における特権の保障根拠に関する議論を検討することによって,対象範囲についての立体的な理解を目指す。 次いで,2024年度後半においては,イギリスにおける問題状況の検討を行う。イギリスにおいては,特権による強要禁止の対象範囲という点においても,特権の保障根拠という点においても,アメリカにおける議論を参照しつつ,やや異なる方向に議論が展開されている。それゆえ,アメリカ法についての精確な理解を前提にイギリス法を検討することで,本研究課題の解決のあり方をより深く考察できるようになることが期待される。 2025年度および2026年度前半においては,アメリカ法およびイギリス法を踏まえた本研究課題の解決のあり方を整理し,学会における研究報告を行った上で,ドイツやカナダといった他の法域における議論を検討することを通じて,より多角的な視座から本研究課題について考察する。その上で,2026年度後半に,これら諸法域における検討を踏まえて,我が国において,自己負罪的行為を法的に義務づける捜査処分に対する憲法上の規律をいかに解すべきかについての結論を提示する。
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Causes of Carryover |
若干の次年度使用額が生じた理由は,次年度において公刊予定の外国文献が存在し,その購入費用に充てるため,あえて物品費の予算執行を抑えたことによる。 次年度は,新たに請求する分と併せて,約91万円の研究費を使用できることとなるが,その内訳は,以下の通りである。 在外研究費(20万円),アメリカ法文献購入費(21万円。次年度使用額は本費目に充てる),イギリス法文献購入費(20万円),日本法文献購入費(15万円(我が国における最新動向を把握するため)),データベース資料の印刷代および図書館における文献複写代(8万円。諸外国における判例資料や論文資料を大量に印刷して検討する必要があるため),物品費(7万円)
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Research Products
(1 results)