2023 Fiscal Year Research-status Report
環境・社会価値の考慮を組み込んだ会社経営を支える法的制度の検討
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23K01162
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
高橋 真弓 一橋大学, 大学院法学研究科, 准教授 (90340273)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ESG情報 / ESG評価機関 / 第三者評価事業者 / 社会的企業 / 環境・社会価値 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、伝統的に営利法人として構成されてきた株式会社の経営に、環境・社会価値の配慮を求める近年の世界的な議論の潮流を踏まえ、それらの価値を会社の経営や組織構造に組み込むためのインフラとして必要になる新たな法的ルールの構想案と、これを実現するに伴って生じる様々な課題のうち、特に以下の2つの側面について検討し、それらの法的規律の導入に係る課題はいかなるものであり、また当該課題はどのように解決されるべきかを考察することを目的としている。 ①環境・社会価値に係る情報開示義務の拡充と、それらの情報を分析・評価し、評価結果をステークホルダーらに提供する事業を営む第三者評価事業者をめぐる法的規律の検討。 ②環境・社会価値の追求を主たる目的に掲げる営利事業者のための新たな法人形態、あるいはかかる事業者を差別化するための制度の導入の要否に係る検討。 令和5年度は、上記①に関連して、ESG評価機関の現状とこれに係る法的課題の洗い出しを行い、令和4年に金融庁が公表した「ESG評価・データ提供機関に係る行動規範」の内容と法的規律のアプローチについて、EU・英国等における規律の展開との比較法的考察を行った。ESG評価機関は、サステナブルファイナンスを取り巻く情報エコシステムの一端を担う存在として近時急速に金融市場において存在感を増してきている第三者評価事業者であるが、ESG情報の評価に係る技術的発展自体が日進月歩である上、その規律には透明性と同時に多様性の確保が求められるという難題があり、また市場における評価機関の地位が完全に確立したとは言えない市場環境にあって金融市場の他の情報仲介者とは異なる課題を認識する必要性もあることを論じた。 また、これらの分析と並行して、②の課題につき欧米の研究文献や統計データを幅広く渉猟し、分析を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究開始当初、②「環境・社会価値の追求を主たる目的に掲げる営利事業者のための新たな法人形態」に係る研究成果は令和5年度中に、①「環境・社会価値に係る情報を分析・評価する事業を営む第三者評価事業者をめぐる法的規律の検討」については令和6年度に公表することを目指していたが、令和5年度と6年度の成果公表目標を入れ替え、令和5年度は、先に①の研究について論文を公刊した。 順序を変更した理由としては、第一に、令和5年から6年にかけて、①に関連してEUにおけるESG評価機関の法的規制の立法作業が具体的進展を見せたこと、第二に、②の課題については、ステークホルダーガバナンス論や企業のパーパス論の進展の中で、新たな法人形態の位置付けを更に多くの観点から検討する必要性が明らかになってきたことが挙げられる。②に関連しては、米国においていわゆるベネフィット・コーポレーションの上場例が増えてきたこともあり、それらの上場会社の開示資料等についても渉猟・分析が必要となってきているため、引き続き分析を進め、令和6年度中に成果を公刊することを目指したいと考えている。順序は入れ替えたものの、②の課題についてより長い研究期間を確保することで、全体としては順調に進捗しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和6年度は、令和5年度に引き続き、②「環境・社会価値の追求を主たる目的に掲げる営利事業者のための新たな法人形態」に係る研究を進め、成果をまとめて公刊することを目指す。また、令和7年度には、①の研究成果について、従前申請者が行ってきた他の企業情報の第三者評価事業者に係る法的規制の分析とあわせて相互比較の上、企業情報の評価事業者に共通する法ルールのあり方をより俯瞰的に考察する論文または著書を公刊したいと考えている。 ②の新たな営利法人形態については、欧米における学術文献、新たな法人形態に係る各国の立法資料、実際に新制度を利用している企業の開示情報や当該企業を取り巻く紛争等に係る資料を分析対象としてきているが、こうした特定の営利法人形態そのものを対象とした研究等に限らず、法人法制全体における体系的な位置づけを考察するため、営利法人法制・非営利法人法制のそれぞれの領域における課題との論理的一貫性の視点も重視し、幅広い観点から検討を進めたい。
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Causes of Carryover |
令和5年度は、主として直近の学術論文や規制当局の公表資料等を渉猟・分析したが、所属大学の附属図書館が契約しているデータベースやウェブサイトを通じて入手可能な文献が多く、また所属大学の紀要において成果を公刊したため、研究に多くの支出を要しなかった。 他方、②新たな営利法人形態に係る研究が当初予定よりも多くの視座からの分析を必要とし、研究成果も大部のものとなる可能性が生じているため、次年度使用額及び令和6年度以降分については、それらの分析に係る文献収集費及び成果の公表に係る費用に充当したいと考えている。
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