2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23K01224
|
Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
長谷川 義仁 近畿大学, 法学部, 教授 (50367934)
|
Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
|
Keywords | 胎児治療 / 医療事故 / 損害賠償 / 胎児の権利 |
Outline of Annual Research Achievements |
医療は、患者と医療側との間で締結された契約に基づき提供されるとするのが従来の日本の判例の立場であるが、患者が契約成立時には現存しない胎児である場合、医療は胎児を懐胎する母親と医療側との間で締結された契約に基づき提供されてきた。しかし、胎児治療の対象が母親ではなく胎児である以上、上記法律構成では、胎児に私法上の法的利益が帰属しないという問題が含まれる。そこで、胎児に胎児治療にかかる法的利益を帰属させる法律構成を考える必要がある。 本研究は、胎児に対する胎児治療に関する医療契約論について探求する。具体的には、契約成立時に現存しない第三者の受益の意思表示をもって第三者の権利が発生する旨規定する2017年改正民法537条2項・3項に関連して、①出生前治療について胎児を受益者とする第三者のためにする契約と構成することの可能性、②胎児による受益の意思表示の可能性、そして③胎児に権利が帰属しうる時期と範囲を解明する。 本研究は、ロンドン大学高等法学研究所のVisiting Researcherである2023年度と2024年度は、母胎内にある間に外科的手術を受けた胎児が出生した事案を有するイギリス法を比較法研究の対象とする。イギリスでは、医療提供は、NHSによるため、日本法のように契約に基づいて提供されるという構成はとらないのが原則である。そこで、2023年度は、胎児に司法上の権利が帰属しうるかを検討するため、胎児が母体内にある間に受けた損害に関するCongenital Disabilities (Civil Liability) Act 1976を主たる研究対象とした。イギリス法では、胎児治療によって胎児に事故が生じたときは、不法行為構成によって処理することとなり、1976年法が妥当するからである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度と2024年度は、母体内にある間に外科的手術を受けた胎児が出生した事案を有するイギリス法を比較法研究の対象とするが、2023年度は、特に、胎児が母体内にある間に事故により損害を受けた場合のイギリス法における胎児の損害賠償請求権の根拠について検討した。かかる課題を実行するために、2023年度は、Congenital Disabilities (Civil Liability) Act 1976を主たる研究対象とし、これについて立法、裁判資料及び法文献を調査した。2023年度の研究は、研究代表者が2023年10月から2024年9月の間ロンドン大学高等法学研究所にて在外研究を実施しているため、IALS及びBritish Libraryにて容易に入手することができた。また、1976年法は、日本でも従前から研究が蓄積されておいる。そのため、2023年度の研究は、おおむね順調に進展した。
|
Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、Congenital Disabilities (Civil Liability) Act 1976を主たる研究対象としたが、1976年法は、胎児が母体内にある間に事故により損害を受けた場合の胎児の損害賠償請求権について規定するものである。しかし、本研究は、1976年法が妥当する胎児治療での事故発生時の損害賠償請求権を含めて、胎児治療を受ける胎児の私法上のもっと普遍的な法的利益の帰属の可否を対象としている。1976年法が規定する胎児の権利は、本研究が対象とする胎児の私法上のもっと普遍的な法的利益のうち一部の法的利益にとどまる。そこで、2024年度の研究では、損害賠償請求権以外の胎児の私法上の法的利益の法的根拠の検討を主たる対象とする。 かかる研究課題を実行するには、イギリス法におけるイギリス法のContracts (Rights of Third Party) Act 1999の議論が有用と考える。NHSによる医療提供は、原則として、日本法とは異なる法律構成をとるが、イギリスでは、患者はNHS以外の医療機関とプライベートに契約を締結して医療を受けることもできる。かかる医療提供は、日本と同じように契約構成をとるとされるため、胎児治療も契約に基づいて提供されることとなりうるから、胎児治療を第三者のためにする契約として構成する余地がある。そこで、2024年度は、上記観点に立脚し、胎児の契約上の地位について検討する予定である。なお、在外研究終了後もイギリスでの調査研究が必要であり、これについては過年度未執行経費の繰越分をあてる。 そして、上記研究が順調に進めば、2025年度・2026年度には、母体から摘出された胎児が胎児治療を受けた後に母胎に戻され、その後出生した事案を有するアメリカ法について検討し、2027年度にはそれまでの研究成果から日本法への示唆を得る予定である。
|
Causes of Carryover |
研究代表者は、2023年10月から2024年9月の間ロンドン大学高等法学研究所にて在外研究に従事しており、これの渡航費用は自己負担にて対応した。2023年度は、当初の研究計画では、イギリス法の調査研究のためのイギリスへの渡航費用を計上していたが、上記のように在外研究の費用を処理をしたため、2023年度の支出として予定していた旅費が未使用となった。また、在外研究に伴い、直接経費の支出額は、渡英前に購入した物品にとどまった。そのため、2023年度は、予算を全額使用することはできず、734140円の次年度使用額が生じた。 なお、上記次年度使用額については、研究代表者が在外研究を終了して帰国後に、2024年度に予定する研究課題を継続するにはイギリスでの調査研究が必要であるため、これらの経費として使用する予定である。
|