2023 Fiscal Year Research-status Report
戦後ソ連の国交回復問題と1950年代の国際政治―極東情勢と欧州情勢の連関
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23K01276
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Research Institution | Kaichi International University |
Principal Investigator |
清水 聡 開智国際大学, 国際教養学部, 教授 (50722625)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 昭菜 多摩大学, 経営情報学部, 准教授 (20784169)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Keywords | 冷戦史 / 国際政治史 / 国交回復問題 / 独ソ関係 / 戦後日本外交史 / ソ連外交 / 日ソ共同宣言 / 「アデナウアー方式」 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、以下の3点を実施した。 (1)研究組織を確立させ、各自の研究領域の範囲を明確化させたこと。この点については、清水(研究代表者)がドイツを中心とした欧州情勢と極東情勢の連関について、ソ連の国交回復問題を中心課題として研究を進めること、小林(研究分担者)が抑留史の観点から日ソ関係の動態の特徴を解明し、それにより日ソ国交回復過程の分析を進めることについて、それぞれの研究領域の範囲を明確化させた。 (2)極東・欧州関係史研究会の開催。研究会において研究目的と研究方法、ならびに5年間の研究計画について話し合いを行った。その上で、小林昭菜『シベリア抑留:米ソ関係の中での変容』(岩波書店、2018年)に関する書評会を実施し、《抑留者をめぐる日ソ関係》と《欧州情勢》との連関について議論が展開された。とくに1945年8月にソ連が、70万8000人の病気または衰弱したヨーロッパ人軍事捕虜の解放と、日本人軍事捕虜のソ連領内への移送を同時に進めたこと、この政策判断のなかに極東情勢と欧州情勢とが連関する可能性があることに注意が向けられた。同時に《連関した事例》と《連関していない事例》とを、より客観的に検討するために、対象期間の情勢に関して包括的・網羅的に情報を分析する必要があることも指摘された。研究会での議論により、研究の方向性について再考する機会が得られ、次年度以降の課題がより明確になった。 (3)研究成果の公表。清水(研究代表者)は【書評論文】「『シベリア抑留』と冷戦史―極東情勢と欧州情勢の連関―」(『開智国際大学紀要』)を執筆し、戦後初期の捕虜をめぐる問題が、戦争の展開とソ連国内の再建という構造的な要因と関係していたことを指摘し、それにより冷戦初期の特徴の一つを明らかにした。また小林(研究分担者)は、後述するようにソ連に抑留された日本人軍事捕虜に関する共著を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、極東・欧州関係史研究会のなかで活発な議論が進められ、基礎文献ならびに最新の研究動向の整理が進んだ。とくに独ソ関係と外交史を専門とする清水(研究代表者)は、日ソ関係と抑留史を専門とする小林(研究分担者)の協力を仰ぐことができたため、より実証的な研究結果を得られる環境が整えられた。 また清水は、ソ連外交の全体像を把握することにも努め、とくに冷戦終焉期の動向について、「ソ連・東欧圏の崩壊と冷戦の終焉―1980年代初め~1990年代初め―」(益田実・齋藤嘉臣編著『冷戦史:超大国米ソの出現からソ連崩壊まで』法律文化社、2024年)326~363頁、を執筆した。とくにそのなかで、グローバルな冷戦の終焉、あるいは「ベルリンの壁」崩壊や東欧革命など、極東情勢と欧州情勢の連関に関係する研究上の視座も描き出した。 小林は、次の研究書を執筆し、ソ連による教化と日本人軍事捕虜の心の変化を探った。Akina Kobayashi, “From Japanese Militarism to Soviet Communism The ‘Change of heart’ of Japanese POWs through Soviet Indoctrination,” in Aglaia De Angeli, Peter Robinson, Peter O’Connor, Emma Reisz and Tsuchiya Reiko (eds.), Competing imperialisms in Northeast Asia: new perspectives, 1894-1953 (London: Routledge, 2023), pp. 106-120. その他、研究成果を日露関係史研究会にて報告する企画(2024年12月、開催予定)を準備し、個別の研究が着実に進んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究については、以下の5点が推進方策である。(1)情報収集と史料収集の継続。清水(研究代表者)は、ドイツ連邦文書館あるいは外務省外交史料館での史料収集を進め、極東情勢(日本)と欧州情勢(ドイツ)の動向を把握し、ソ連の国交回復問題の実態について解明を目指す。小林(研究分担者)は、抑留史の視点を中心に情報収集を進めることにより、1950年代のソ連外交の実態を際立たせることを試みる。 (2)研究の精緻化。戦後ソ連の国交回復問題に関する研究課題は、精緻な分析が求められる。研究の推進方策としては、時系列に沿って極東情勢と欧州情勢の展開を入念に比較検討する作業が求められ、その過程で関連する文献の包括的な収集と分析が必要となる。二年目はこの作業を中心課題の一つに据える。 (3)新たな研究分野に取り組むこと。研究組織のなかでは、一年目の研究活動を通じて、次の個別の研究課題の重要性が指摘された。①西ドイツ首相アデナウアーの訪ソ(1955年9月)、②「アデナウアー方式」(同方式は、講和問題から国交回復問題を切り離すことで、現状打破が可能であることを示す事例となった)、③鳩山一郎首相の対ソ交渉政策、④日ソ共同宣言(1956年10月)と関連事項(漁業問題、抑留日本人の帰還問題、国連加盟問題、北方領土問題)。次年度は、上記の課題の相互関係の分析にも取り組む予定である。 (4)極東・欧州関係史研究会の開催。研究会の開催により、一年目は新たな複数の知見が得られた。引き続き定期的に研究会を開催し、各自の研究成果について、討議を継続する。 (5)研究成果の公表。研究成果を、研究報告(研究会、学会における報告)、研究論文(学会誌、紀要)として公表する。十分な情報収集と史料収集、ならびに実証研究として確立した分析がなされた研究成果については、それを順番に発表する。
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Causes of Carryover |
当初、研究会の開催のために会場を確保する予定であった(会場費の支出を想定していた)。しかし、オンラインの方式で研究会を開催することへと変更となった。そのため、会場費が不要となった。また、円安と物価高、燃料費高騰などの海外渡航費の高騰により、海外調査を次年度以降に延期した。この結果、残額が生じた。次年度使用額については、情報収集と史料収集の一部として活用する。とくに、1955年の冷戦構造の展開について検討するために、国内外における調査活動に重点を置く。
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Research Products
(4 results)
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[Book] Aglaia De Angeli, Peter Robinson, Peter O’Connor, Emma Reisz and Tsuchiya Reiko (eds.), Competing imperialisms in Northeast Asia: new perspectives, 1894-1953 (Akina Kobayashi, “From Japanese Militarism to Soviet Communism The ‘Change of heart’ of Japanese POWs through Soviet Indoctrination.”)2023
Author(s)
Saito Eiri, Christopher W. A. Szpilman, Tsuchiya Reiko, Sherzod Muminov, Alexander Titov, Kobayashi Akina, Yaroslav Shulatov, Denis G. Yanchenko, Yuexin Rachel Lin, Mikwi Cho, Peter O’Connor, Nikita Kovrigin, Peter Robinson and Aglaia De Angeli
Total Pages
275
Publisher
Routledge
ISBN
9780367648237