2023 Fiscal Year Research-status Report
International Trade and Trade Policies in Two-sided Markets
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23K01357
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
椋 寛 学習院大学, 経済学部, 教授 (90365065)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大越 裕史 岡山大学, 社会文化科学学域, 講師 (90880295)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 多国籍企業 / 直接投資 / 租税競争 / ネットワーク効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度は、両面市場やネットワーク効果に関する先行研究を整理するとともに、3つの研究課題のうち、「デジタル化の進行と国家間の租税競争」を中心に研究を行った。すなわち、ネットワーク効果が存在するもとでの、国家間が法人税の減税や補助金を与えることによる、多国籍企業の誘致競争について、分析を行った。 従来の研究では、国内の市場規模が大きく、競争相手が少ない国が租税競争に勝利し多国籍企業を誘致することが明らかにされてきた。それら分析では、輸送費や貿易障壁の存在により、誘致の成功はより高い消費者利益を実現し、一方で国内の競合企業の利潤は下がるという結果になっている。 しかし、経済のデジタル化が進み、ネットワーク効果が生じている場合には、ネットワーク財を生産する多国籍企業の誘致は、より複雑な厚生効果をもたらす。具体的には、多国籍企業が大きな市場規模と国内企業を抱えるA国に立地すると、ネットワーク財の総消費量がB国立地時よりも拡大し、ネットワーク効果を通じて消費者の利益と各企業の利益が大きく拡大する。結果として、多国籍企業にとって生産拠点としてのA国の魅力が大きく高まり、A国が租税競争に勝利する可能性が高くなることが明らかになった。 また、ネットワーク効果が十分に大きいと、多国籍企業のA国への立地は「敵」であるはずのA国の国内企業の利潤をむしろ増大させ、さらにA国の消費者のみならずB国の消費者にも利益をもたらす。こうした結果は、ネットワーク効果を考慮しない先行研究と大きく異なるものである。また、同様の状況では、競争国の総厚生が高まる可能性がある。すなわち、ネットワーク効果により、「悪い租税競争」は「良い租税競争」に変わるわけである。 同研究はディスカッションペーパーとして公開され、コンファレンスやセミナーで報告するとともに、国際学術誌に投稿している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3つの研究課題のうち、「デジタル化の進行と国家間の租税競争」について、2年間で成果を出す予定であったが、初年度で研究が順調に進み、ディスカッションペーパーを出し国際査読誌に投稿することができた。また、「デジタル税の賦課と多国籍企業の利益移転」に関しても、研究分担者の滞在先の大学の研究者からのアドバイスもあり、今後の研究方針を固めることができ、当初の計画以上に進展している。一方、同様に研究を進める予定であった「デジタル分野における地域貿易協定の締結」に関しては、先行研究と基本メカニズムの議論にとどまり、実際の分析と論文の執筆にはより詳細な検討が必要である。以上より、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究2年度目は、「デジタル化の進行と国家間の租税競争」について国内外のコンファレンスやセミナーで報告するとともに、国際学術誌への掲載を目指す。また、「デジタル税の賦課と多国籍企業の利益移転」に関しては、いわゆる税源浸食及び利益移転(BEPS)の包摂的枠組みメンバーにより合意された「第1の柱」、すなわち「売上高200億ユーロ、利益率10%を超えるグローバル企業を対象に、その通常の利益率(売上高の10%)を超える超過利益の25%を市場国に配分」という制度に関して理論的な研究を進め、年度内に論文としてまとめて国際学術誌に投稿することを目指す。 「デジタル分野における地域貿易協定の締結」に関しては、基本的なメカニズムに関する議論を研究分担者と進め、最終年度で集中的に研究を進める準備を整える。
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Causes of Carryover |
研究代表者が、本務校において長期研修を取得し、当該年度の4月から8月までカナダのトロントに滞在していたが、その結果、当初に予定していたアジアで行われる学会や研究打ち合わせを取りやめることになり、また滞在先では科研費を使用して研究環境を整えることが難しいため、使用額が予定額を下回る結果となった。次年度は、初年度に実施できなかった出張や備品の購入などを進め、次年度使用額について適切に支出を行う予定である。
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