2023 Fiscal Year Research-status Report
Globalization and income inequality: Evidence from household surveys in Chile
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23K01401
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
村上 善道 神戸大学, 経済経営研究所, 准教授 (50709772)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Keywords | チリ / グローバル・バリューチェーン(GVC) / 賃金格差 / マイクロデータ / 費用関数 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究計画書に従って、チリのグローバル・バリューチェーン(GVC)における位置が技能・非技能労働者間の賃金格差に与えた影響に関する実証研究を中心に研究を開始した。 文献調査を行い、全国を対象とした家計調査データ(Socio-economic Characterization Survey, CASEN)と首都サンティアゴを対象とした家計調査データを用いて、チリにおける賃金格差の長期的動向を明らかにした。これらをもとに、チリのグローバル化と賃金格差に関して、代表者のこれまでの研究結果を含めてまとめたサーベイ論文を日本語で公刊した。 研究代表者が代表者を務める若手研究「資源豊富国における海外直接投資と国内企業の生産性:チリにおける事例研究」(20K13482)の成果として、チリの1995年から2007年の事業所レベルパネルデータ(National Annual Manufacturing Survey, ENIA)にチリの産業別のGVC上流度・参加度の指標をマッチさせたデータセットを作成済みであったので、これを利用して分析を開始することとした。具体的には、GVC指標のような産業属性を示すパラメータを含むトランスログの費用関数から、技能労働費用の総労働費用に対するコストシェア方程式を導出した。これを用いて、生産する財のGVCにおける上流度・参加度が技能労働者のコストシェアに与える影響を事業所レベルパネルデータを用いて分析した。この結果、GVCにおける上流度・参加度は技能労働者のコストシェアに対して有意に負であることが分かり、これまでの多くの先行研究とは異なり、チリにおいてはGVCにおける上流度・参加度は賃金格差を縮小させているという重要な結果を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前述の通り、本年度は中心となる研究課題について、先行研究をもとに理論モデルから実証分析の定式化を導出し、実証分析を開始し最初の分析結果を得ることができたため、「おおむね順調に進展している」と評価することができる。 なお、比較的早く分析結果を得ることができたのは、前述の通り研究代表者が代表者を務める若手研究「資源豊富国における海外直接投資と国内企業の生産性:チリにおける事例研究」(20K13482)の成果を用いることができた点が大きい。研究計画では、複数時点の家計調査データに産業レベルのGVC指標をマッチさせて分析を行う予定であったが、若手研究で作成した事業所レベルパネルデータにGVC指標をマッチさせたデータセットを使用することができ、さらに実証分析の定式化も同若手研究で用いたトランスログの費用関数を使用できることが分かった。パネルデータを用いることで、時間に関して不変な属性をコントロールすることができるという点でも優れているので、本年はまずそれを用いて分析を開始することにした。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、昨年度得られた「GVCにおける上流度・参加度は技能労働者のコストシェアに対して有意に負」という結果のロバストネスをチェックし、この結果をいったん英語論文としてまとめて査読付きの国際ジャーナルに投稿する予定である。 重要な点として、当初の計画では、複数時点のクロスセクションの家計調査データ(CASEN)を使用する計画であったが、チリには同一個人を複数時点にわたって調査した家計パネル調査(Social Protection Survey, EPS)が入手できることが分かった。そこで申請したところ、2002年から2019年までの計7時点わたる個人のパネルデータを入手することができた。これを用いれば、当該個人が雇用される産業のGVCの上流度・参加度が賃金に与える因果的な効果を識別することができると考えられる。現在調べた限りでは、この家計調査パネルに産業属性のパネルデータをマッチさせて行った研究は稀であり、オリジナリティの高い研究になる可能性が高い。これを用いて、事業所レベルのパネルデータを用いた場合と同様に「チリにおいてはGVCにおける上流度・参加度は賃金格差を縮小させる」という結果が得られるかを検証する予定である。 なお、本年度においても昨年度同様、指導院生を学生研究支援として雇用できることが確定しているので、学生研究支援員の研究補助を有効に活用して効率的に研究を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
学生研究支援員が新型コロナウイルス感染防止のため学外でオンラインにて勤務できるようにするためにノートパソコンを購入する予定であったが、「新型コロナウイルス感染拡大防止のための神戸大学の活動制限指針」の全項目がレベル0(=通常)に引き下がり、対面での勤務が可能になったため購入する必要がなくなった。また、学生研究支援の人件費を2023年7月までは研究代表者が代表を務める若手研究「資源豊富国における海外直接投資と国内企業の生産性:チリにおける事例研究」(20K13482)から支出したため、当初の計画よりも支出が少なくなった。これら主に2点の理由により、次年度使用額が生じた。 2024年度においても学生研究支援員に研究補助業務を依頼するのでその人件費として使用する予定である。
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