2023 Fiscal Year Research-status Report
戦後復興期労働運動の分水嶺-パーソナル・ドキュメントの分析から-
Project/Area Number |
23K01729
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Research Institution | Sapporo Gakuin University |
Principal Investigator |
大國 充彦 札幌学院大学, 経済経営学部, 教授 (40265046)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
玉野 和志 放送大学, 教養学部, 教授 (00197568)
西城戸 誠 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (00333584)
中澤 秀雄 上智大学, 総合人間科学部, 教授 (20326523)
新藤 慶 群馬大学, 共同教育学部, 准教授 (80455047)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 戦後復興期の労働運動 / 夕張炭鉱 / 炭鉱労働組合 / 生活史研究 / パーソナル・ドキュメント |
Outline of Annual Research Achievements |
夕張で長く炭鉱労働組合の幹部を務めた笠嶋一氏から寄託された膨大な資料の中から、われわれは前期科研費(課題番号20K02067 基盤研究C)により、まず日記翻刻・刊行を実現した。その成果として『戦後日本の出発と炭鉱労働組合: 夕張・笠嶋一日記1948-1984』(御茶の水書房)と題する書籍を2022年秋に出版した。これは夕張(鉱・平和鉱・夕張新鉱)の炭鉱労働組合幹部であった笠嶋一氏の初期の日記の翻刻・解説を行った書籍で、戦後史研究・北海道地域研究・コミュニティ研究・生活史研究等に関わる人々からの反響があった。例えば、夕張を深く知り研究している人びとに高く評価されている。夕張の炭鉱労働組合運動のキーパーソンが記した資料としての意義が大きく、先行研究として参照してきた農民日記と異なることが明らかとなった。 笠嶋氏は労働運動のキーパーソンであり、『新夕張炭鉱』の解散記念誌の編纂などで活躍した。その人物の青年期における人格や行動指針の形成に影響を与えたと推測できる出来事や事柄を垣間見ることが出来る資料を対象に、等身大の人物を通して時代の背景を捉える端緒となる位置にあることが分かる。資料の位置づけを以上のように捉え返し、日記以外の資料をどのように読み解いていくかについて議論を行った。 その点から、本課題で行う3つの課題を再確認した。①日記等を用いたネットワーク分析、②公民館を背景とした戦後の青年文化運動に関する資料分析、③戦後労働運動の分岐点となった時期の資料分析である。翻刻した日記データを本格的に活用し、パーソナルなライフ・ドキュメントを社会変動研究と連接させる。そこから戦後の労働運動がもっていた可能性・陥穽と今日の様々な社会運動への示唆を明らかにすることを目的とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
検討対象としている資料群、パーソナル・ドキュメントの位置づけがある程度明らかになったことで、研究の方向性が見えてきたと考えるからである。先の科研研究では、笠嶋氏の日記の翻刻と解説を主たる目的としていた。今期の科研では、それ以外のパーソナル・ドキュメントや資料の数々を整理しながら、夕張の炭鉱労働運動のキーパーソンが、青年期を通じてどのような影響を受けながら人格形成を遂げていったのか、当時の現場の人間だからこそ捉えることができた労働運動の諸側面を明らかにしていくという課題が明らかになったと考えるからである。その意味で、研究当初から想定していた、現地の人的ネットワークから浮かび上がる戦後社会の構造との連接を可能にする分析に、さらなる意味が見出せたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
笠嶋氏が重要だと考えていた青年婦人部の活動に関する資料は、当時の労働組合運動が内包していた大きなモメントだと考えられる。その意味で青婦関連の組合資料を確認し、笠嶋氏のパーソナル・ドキュメントと照らし合わせる作業を進める予定である。また、人的ネットワークの広がりについても同様に確認していく。その際に、組合のサークル・文化活動と労働現場との関連を示唆する記述にも留意する。その他に、労働党関連の資料を精査して、当時の党派的な活動の現場での受けとめ方を明らかにしつつ、青婦関連の活動、サークル・文化活動の位置づけを明らかにしていく。これらの活動の背景には、敗戦直後に地方青年を中心に構成された公民館建設運動の成功体験が笠嶋氏にあると考えられているため、その側面から戦後日本の社会運動史を照射する視点を明らかにしたいと考える。
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Causes of Carryover |
資料整理の方針が3ヶ月ほど定まらなかったため、その分の謝金を次年度使用額とした。使用計画としては、資料整理方針が当面、定まったため、主として謝金として用いる他、資料整理のための消耗品などの購入にあてる計画である。
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