2023 Fiscal Year Research-status Report
クラフトビール産業の創出過程と醸造家の技能形成に関する社会学的研究
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23K01779
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Research Institution | Taisho University |
Principal Investigator |
澤口 恵一 大正大学, 人間学部, 教授 (50338597)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 職業キャリア / 組織フィールド / 醸造所 / ビール / ライフコース / 地域振興 / 産業史 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度にあたる2023年度には、研究計画通りに、全国を対象にした醸造所データベースの作成、醸造家へのインタビューの実施、イベントでの参与観察、醸造に関する知識の修得を行った。研究計画策定当初の予定どおりに研究は進捗している。 インタビューについては、これまでに関東、東北、北陸エリアの経営者や醸造責任者を対象に、入職の動機、技術修得・アイデンティティの形成・人的交流・業界の課題などついて聞き取りを行った。2000年前後までは技術習得の方法は限定的であったこと、イベントの参加が技術交流を促す機会となっていることを明らかにできた。 醸造所データベースには、非大手資本が経営する醸造所として、2024年12月までに免許を取得した稼働中の832件が登録されており、都道府県、経営母体、郵便番号、住所、開業時期、公式サイト、経営者、醸造長などに関する情報を記録した。2025年に予定している質問紙調査の依頼を行う準備が整っている。また、このデータベースから、エリアごとの醸造所の地理的な集積や開業年の傾向を把握した。 ビアフェス(関東、北陸、東北エリア)の参与観察を行い、イベント主催者への聞き取りを実施し参加している醸造所に研究計画の説明と質問紙調査への協力依頼を行った。イベントの運営形態やボランティアの役割、出展者の傾向などについて把握することができた。醸造所の集積地(横浜市、沼津・三島市、静岡市、長野市など)での参与観察を実施し、参入者の傾向や地域とのつながりについて把握した。 醸造技術やビール評価についての知識習得については文献の収集、現地視察、研修の受講などを行った。石見式醸造法による初期投資の低コスト化が近年の新規参入の増加に大きな影響を及ぼしていることがわかった。ビアスタイルの定義や官能評価の方法を把握することによって、酒類としてのビールの特質について明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全体的には研究計画は概ね当初の予定通りに順調に進捗しているといえる。質問紙調査の準備については、醸造所データベースの作成を予定以上のペースで進めることができている。質問項目の策定に必要な準備(経営、醸造、産業の歴史などに関する専門的知識の習得)についても予定通りに進捗することができている。集積地でのフィールドワーク、イベントや醸造工程の参与観察についても、当初の予定通りに進めることができている。これらの取り組みを通じて、研究に関する助言や協力、インタビュー対象者の選定を進めることができた。インタビューについては、当初、経営母体の類型に応じた対象者の選択をする予定であったが、ビール醸造への依存率が低い経営多角化をしている企業、清酒醸造業も営む企業への調査が実施できていない。これは依頼を行っても拒否や無視をされることが多いためである。それ以外の依頼については概ねインタビューの承諾を得られており、当初の計画通りに進めることができた。インタビューでは固有名詞(人物や企業)や専門用語が頻出する。その理解のためにビアスタイル、官能評価、醸造法や醸造技術について知識を習得する必要がある。これらの用語を収録したデータベースを作成して対応をしており、対象者との意思疎通ができるようになっている。成果発表としては論文1本、学会報告1本のほか、としまコミュニティ大学(豊島区)での講義も実施することができ、十分な成果を上げることができたと考えている。 ただし、当初の計画とは異なり、インタビューの調査地については関東、東北、北陸エリアに限定された。その理由はイベントでの聞き取りをもとにインタビューの対象者を決定することになったためである。次年度はさらにインタビューの調査地を拡大することができるはずである。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画策定当初の予定通りに2024年度秋に全国の醸造所を対象とした全数調査を実施する。その成果をふまえて2025年秋には醸造士を対象とした調査を行う予定である。そのために必要となる作業が醸造所データベースの補完と質問項目の検討である。醸造所データベースの補完については2025年6月時点までの免許取得を区切りとして新規参入者の登録を続ける予定である。質問項目の検討にあたっては、多様な経営規模、経営主体、参入目的に応じたワーディングを行うことが求められる。そのため2025年度前半中には2024年度には対象にしてこなかった属性の醸造所を対象に聞き取りを行う必要がある。
醸造家、経営者へのインタビューについては、2024年度以降には、ライフスタイル起業、ライフスタイル移住の経験者、あるいは副業として醸造業を営んでいる人物、社会福祉や地域振興を目的とした企業家、女性の醸造士を中心として実施していく必要がある。イベントでの参与観察やフィールドワークについては、これまで関東、東北、北陸エリアを中心に実施してきたが、今後は他のエリアを対象に実施していく予定である。
調査計画の推進上、当初、予期していなかった課題も生じている。第一に、研究計画策定時点で想定していなかったほど、醸造所の新設のペースが加速していることである。一方で施設老朽化により醸造所の改廃も相次いでいる。質問紙調査を実施するにあたり、母集団の規模を把握するため醸造所の稼働状況に関する郵送調査を事前に実施する必要が生じている。第二の問題点は、各種経費の値上がりにより質問紙調査の費用が想定を上回ることである。いずれの課題も調査計画全体の経費と密接に関わる問題であるため、最終的な研究成果の質を損ねないことを最優先として総合的な判断を行っていくことが必要である。
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Causes of Carryover |
概ね計画通りに予算を使用することができているが、1回分の出張費を翌年に持ち越すことになった。その経緯は遠隔地の醸造責任者に、2月にインタビューの依頼をしたところ、対象者から許諾の回答を得られたのが翌年度となり、年度内出張を実施することができなかったためである。現在、対象者と日程の調整を進めており、アポイントメントが決定しだい出張をする予定である。その経費として次年度使用額を使用する予定である。
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