2023 Fiscal Year Research-status Report
優生思想批判のための倫理の構築:現代社会における<生の肯定>をめざして
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23K01931
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
後藤 雄太 広島大学, 人間社会科学研究科(文), 准教授 (90610478)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 優生思想 / 反出生主義 / 生の肯定 / ニーチェ / 障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、現代の優生思想に抗し得るような世界観・生命観・人生観を描き出すことを目的とする。具体的には、現代社会における優生思想の特質・背景を解明したうえで、その思想構造と、哲学的伝統における<生の肯定>の思想構造を互いに突き合わせつつ、現代における優生思想的思潮の克服への道を切り開いていく。 2023年度の研究実績は、主に以下の二つが挙げられる。①現代日本の「生の否定」の包括的把握: 優生思想をはじめとして、優生思想と関わりが深いと思われる現代的な現象(具体的には、「安楽死肯定の声の高まり」「10代の自殺の増加」「拡大自殺への高い関心」)、および思潮(反出生主義)を取り上げ、ルポルタージュや各種統計を含む文献の調査を通して、総合的・包括的視点から、現代日本における「生の否定」の実像を明確化することを試みた。この研究実績は、行為論研究会にて「現代日本における「生の否定」の諸相」と題して発表し、意見を募った(2024年3月)。②「生命の尊厳」「人権」の批判的考察: 優生思想を批判する際に主に依拠される論拠として、キリスト教的伝統を背景とする「生命の尊厳」、あるいは「生存権」のような「人権」の思想が挙げられる。しかし、ニーチェ哲学を手がかりに、それらの思想は西洋の形而上学的伝統に基づいた観念的なものであり、生の真の肯定には結びつかないどころか、「自己決定権」という人権に特に顕著に表れているように、むしろ生の否定を促してしまっている側面があることを主張した。この研究実績を、論文「「生命の尊厳」にも「人権」にも依拠しない<生の肯定>に向けて――優生思想批判のための準備作業」にまとめ、雑誌『Habitus』に発表した(2024年3月)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
準備的作業がおおむね終了できた。また、本研究の成果として出版予定の書籍の全体構想も固まってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、主に以下の二つの課題に取り組む。①2023年度に行った「生命の尊厳」「人権」の批判的考察の成果を前提としつつ、「生命の尊厳」や「人権」といった概念に依存しないような<生の肯定>の思想を、主にニーチェ哲学を参照しつつ考究していく。そこでは、生を論理的・形而上学的に正当化して肯定することではなく、「人生における苦しみの存在をいかに受け入れ、自己変容していくか」が本質的な課題として見なされる。その研究成果を論文にまとめ、2024年度内に発表する。②さらに、より実践的な観点から、倫理的な実践家である宮沢賢治の作品と人生を主な手がかりとして、「生を否定することなく、苦しみ多きこの世界に根付きつつ生き抜いていく方途」を探究する。その研究成果を論文にまとめ、2024年度内に投稿する。 2025年度は、これまでの研究成果のまとめ、および補足をし、書籍にまとめて出版することを目指す。
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Causes of Carryover |
研究発表の会場が自分の大学だったため、旅費が発生しなかったのが理由。文献購入費が不足しているため、そちらに回す予定である。
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